1 「林業」のゆくえ


政策提言レポートの第一弾として、奈良県・日本のの林業再生について書いてみました。

ご意見をいただければ、幸いです。
http://data.tezj.jp/st0001shinrin01.pdf

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(第1稿:平成20 年(2008 年)8 月5 日(火))
政策提言レポート1「奈良の森林・林業

奈良県は、林業県と言われてきた。
しかし、現在では、その地位が危ぶまれている。
平成20 年(2008 年)5 月9 日森林間伐促進法が成立(5 月16 日施行)
現在年間35万ha の間伐面積 → +毎年20万ha = 目標55万ha/年
京都議定書のマイナス6%のうち、3.8%は森林吸収源。
目標が達成できなければ、森林吸収源の枠を使い切れない。


一.森林組合の研修を視察

全国森林組合連合会(全森連)主催
全国の森林組合の職員を対象とする研修会(4日間)
4日間のうち、2008 年6 月17 日〜18 日、はじめの2日間に参加。
http://www.zenmori.org/


間伐を推進するにも、林業の不振でなかなか進まない現実。
→全森連が、先進的な森林組合の取り組みを全国に広げる研修を企画。
先進的な森林組合京都府南丹市の日吉町森林組合
ノウハウを全面公開し、研修を引き受け。


奈良県林業行政の評価
「県内の森林組合の改革が必要」
「行政が稜線への林道整備するかどうかも、それが前提」


奈良県林業を考えるときには、
森林組合の経営のあり方について知る必要有り。
→全森連に頼み、4日間の研修のうちはじめの2日間に参加。


研修の内容
「提案型集約化施業」(ていあんがたしゅうやくかせぎょう)


森林組合とは

組合員:森林の所有者
組合員から委託されて山の管理を行なうという組織(事業協同組合)。

但し、木材の価格が低下していたため、
森林組合は、これまで公共事業に依存するような事業体に。

しかし、その結果、間伐がなされない山が増え、山が荒れ始めた。
今、日本の山は深刻な状態に。

戦後集中的に植栽をした森林は、今、伐採期を迎えはじめている。
→ 商品になる間伐材をできるだけローコストで搬出、かつ、
→ 長期育成の木を残すという手入れが必要。


日吉町森林組合 = 全国に先駆けて「提案型集約化施業」を実施。
「提案型集約化施業」とは
組合員の森林所有者に対して「提案」を行ない、
小規模に分かれている林地を「集約化」して、
間伐を行なうシステムのこと。


湯浅参事「うちは、そんなに特別なことをやっているわけではありません。」
「ただ、普通のことをやっているだけです」と謙遜。


日吉町では、多くの所有者の林地を集約化して間伐を行なうため、
所有者一人一人と委託契約を締結。
= 見積書を発行(間伐材の販売+補助金等−人件費などの経費)
→ どれだけ所有者に返ってくるかを明記。


湯浅参事の主張するポイントは、
1.作業道の作り方
2.高性能林業機械の遅れ
3.進まない所有と経営の分離


1.作業道の作り方

高密路網=高密度に作業道を森林に施設。木材の搬出コストを抑える。
山に林道を施設するということはなかなか難しい。
経験を積んではじめてできる性質のもの。
(大橋慶三郎・岡橋清元「写真図解 作業道づくり」(2007/09/18 全国林業
改良普及協会)参照。)(岡橋清元氏は、奈良県の清光林業社長。)


山への負担を考えれば、作業道の幅は狭い方がいい。(岡橋=2.5m)
しかし、大型機械を入れるのであれば広い方がいい。(日吉=3m)


岡橋氏によれば、
奈良県の場合、2.5m幅の恒久的な作業道をつけることによって、チェーン
ソー・グラップル・2tダンプ車で出材をすることができる。


ちなみに、いわゆる「スーパー林道」は、
林業家にはほとんど使われていないらしい。
スーパー林道を作る予算を森林内の作業道を作る補助金に回せば、
もっと間伐は促進する?



2.高性能林業機械の遅れ

先進国であり、かつ、森林国であるはずの日本において、
高性能の林業機械は作られていない。
ヨーロッパでは、林業専用機械が開発されていて、
効率的に森林の管理ができるようになっている。

日本に入っている機械は、
ユンボの先に林業用のヘッドを着けるというようなものばかり。
湯浅参事「トラクターで通勤するようなもの」。
同じ先進国で人件費も高いドイツから日本は木材を輸入している。
→ いかに日本の林業が効率化されていないかの表れ。
ただ、需要のないところには企業は参入しない。


日本の遅れた森林管理の状態では、市場が小さく、
日本仕様の林業機械をヨーロッパのメーカーは開発しようとせず、
日本の一流機械メーカーも参入しようとしない。
国有林事業を請け負っている民間業者の方の話では、一応、みんな林業
械を持っている。しかし、小さなメーカーしか開発をしていないので、現
在3ヶ月待ちという状態。


湯浅参事「トヨタなどの一流機械メーカーは、すでにヨーロッパには遅れ
てしまっているので、販路としてアジアやブラジルなどに売れるのかどう
かを見極めないと参入しない」


3.すすまない所有と経営の分離

現在の日本の制度では、間伐をしようがしまいが所有者にとっては同じ。
「ウチの土地に他人のための道が通るのはいらん」が通用する。
しかし、間伐ができなければ、国際公約違反へ。


二.解決方法として中村私案

1.森林の会計基準を作成

現在、森林の評価額は、国税相続税の評価に任されている。
しかし、間伐をしているかどうかで、山の価値は違う。

(解決法1)
間伐の有無により森林の経済的価値も変わる。
森林の専門家である林野庁が評価基準を作る。
→ 問題点として、全国一律の基準 = 実際と合わなくなる可能性。
→ 地域の実情をどのように反映するのかが課題。

(解決法2)
森林を担保にお金を貸している金融機関が、担保物件を処分する時に使う
評価基準を元に、地方自治体が地域に応じた評価基準を作る。
→ 問題点として、金融機関と地方自治体が協働する必要がある。


2.林地共同所有株式会社の設立

林地を共同所有する株式会社の設立。
金融機関による「森林ファンド」という形も。
(間伐が進まない原因として、所有と経営の一致。)
(1による)きちんとした森林の評価基準
→ 間伐をしなければ評価額がさがる。

かつ、何年も間伐をしていない森林については、
さがった評価額で、林地共同所有株式会社に現物出資させるという規制も。
これにより、所有と経営が分離。

森林組合も、一人一人の所有者にいちいち確認せずに、
林地共同所有株式会社の了解をとれば、間伐の作業に入れる。


3.国有林の国有株式会社化(2の応用形)

国有林は、独立行政法人化ではなく、国が一般会計で責任を持って運営。
民主党農林漁業・農山漁村再生に向けて〜6次産業化ビジョン〜)
私案では、さらに国有林の所有権だけを株式会社化。(非公開会社)
当初の株式は、国のみが保有

間伐放棄地については、この株式会社の株式と現物出資の形で交換。
次第に国の持株比率は低下していくが、元の所有面積が大きく、
かつ、手入れしている林地は評価額が高いので、
国の持株比率が大きく落ち込むことはない。

林野庁は、全森連と協働して、各地の森林組合に経営改革を提案する。
森林組合が自発的に経営改革を進められるようなスキームを作る。
国有林の高密路網化もこれから。

国有林株式会社が経営改革後の森林組合に管理を委託することで、
提案型集約化施業が民有地で定着する流れを作ることができる。


4.高密度の路網の整備

山の稜線に3m〜最大でも3.5mの舗装された林道(幹線)を整備する。
そうすれば、森林所有者が作業道(私道)を自費でつけるインセンティブ
を与えることができる。

もっとも、間伐補助金をやめ、作業道整備に補助金を出すのも一つの方法。


5.森林組合の経営改革

森林組合が直面する「組合員(=所有者)の意識」。
何を優先すべきか、何に投資をすべきか、判断する基準が必要。
全森連による互助的な取り組みを評価。
地方銀行など地元金融機関による融資・経営参加。
経営理念の共有なき、単なる合併は避ける。


6.高性能林業機械の開発

急峻な日本の林地に合わせた高性能林業機械の開発。(林野庁
国有林事業が先行的に使用することにより、市場を拡大し開発を促進。
但し、奈良県の場合には、記述のように高密度路網の整備の方が有効か。


三.慎重な進め方の必要性
ここまで、収集した情報を元に「あるべき姿」を考えてきたが、実際の政
策の立案・運動の展開には、多くの人の意見を伺う必要がある。林地によ
っても、事情は様々に異なる。きめ細やかな政策の展開が必要になると思
われる。このレポートについても、随時、改訂を加えていく予定である。


以上


参議院議員 中村てつじ