財政健全化と個人向け国債


菅総理所信表明演説がありました。財政健全化を明確な方針とした演説に対しては、同僚の与党議員からも「財務省に取り込まれてしまった」という評価もされていました。ただ、巨額の財政赤字自体は、持続可能ではないために、どこかで歯止めをかけなくてはならないことも事実です。

私も、「強い経済・強い財政・強い社会保障」のためには、消費税の税額を上げることや法人税の課税ベースを見直すことなどが必要だと思っています。ただ、最近は、物事には順序があり、まずやるべきことは「個人向け国債」の制度を見直すことなのではないかと考えるようになりました。


個人向け国債は、元本が保証されていながら、金利は変動金利性になっていて、債券自体の値下がりが無い商品です。ただ、デメリットは、その変動金利長期金利から0.8%を引いた金利になっているということです。
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/kojinmuke/contents/outline/hendou.html


現在1.2%ぐらいの長期金利なので、0.8%マイナスなら、個人向け国債金利は0.4%。これを例えば、マイナス0.3%にする。そうすると、個人向け国債金利は0.9%になります。そうすると、銀行の金利よりもかなり良い金利なので、預金者は銀行預金を引き出して個人向け国債を買うことになります。

銀行は、預金の払い出しのために、保有している国債を市場に売却することになります。そうすると、流通する国債が増えるので、債券の値下がり=長期金利の上昇になります。長期金利が上昇すると、個人向け国債は元本が保証されていて、かつ、長期金利の上昇に合わせて金利が上がるので、より魅力的な商品になります。


このような仕組みを作っておくと、金利の上昇局面が来た時に、個人が国債を買い支えるインセンティブがあることになり、投機的資金による国債暴落というリスクを回避できることになります。

この考え方は、株式会社が個人株主を増やそうとしていることとよく似ています。投機的資金による通貨の攻撃に対して、個人が自分たちの蓄えを個人向け国債の形で保有することにより、自国の通貨を守ることにもなります。


現在、各国の長期金利を比べると、ギリシア→スペイン→フランスの順に上がっています。これが、ドイツ・アメリカ・日本に及ぶ可能性もあります。その時、ドイツ→アメリカ→日本の順に上がって行った場合、日本は1ドル=70円超円高の状態から、一気に1ドル=120円円安+長期金利の上昇ということに投機的資金から攻撃を受ける可能性も出てきます。

このような急激な為替の変化は、日本の経済に非常に大きな悪影響を与えます。


財政再建も大事ですが、その取り組みの前に、個人投資家を優遇して「安定株主」(正確には安定国債保有者)を増やし、足下を固めることが必要なのではないかということです。


(実は、今日書いたことは、経済学者の中前忠さんの受け売りです。中前さんの勉強会には、定期的に参加しているのですが、最近、ようやくおっしゃっていることが分かってきました。多くの人には、なかなか分かって頂けない理論ですが、一度分かるとなるほどと思います。)