移住・住みかえ支援機構(JTI)へのヒアリング


空家活用・住み替え支援のために設立された「移住・住みかえ支援機構」(JTI)については、先日のブログにも書かせて頂きました。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20100801


ただ、貸主に対する家賃保証のしくみについても、JTIの設立に関わった国交省からは聞いて来ましたが、細かい運用住み替え支援が進まない構造的な問題を知るため、JTIから直接話を伺うことに致しました。

今回のブログは、その報告です。分かりやすいように、会話形式にしていますが、この通りのやり取りをしたわけではありません。言い回しなども、私流にアレンジしています。(そのため、JTI側から指摘があれば、その都度、表現を修正します。)


<<<再現開始>>>


中村:JTIの収益源は何ですか?

JTI:現在、協賛事業者(仲介を行う宅建業者)が180社あります。年会費が12万円なので、ハウジングライフプランナー試験実施の諸費用等を引いた8万円程度×180社=1440万円程度が粗利になります。

また、協賛事業者(新築住宅の建築業者)からの年会費が規模に応じて払われています。現在は「移住・住みかえ支援適合住宅」の認定を受ける協賛事業者は、大手の住宅メーカーであるため、年会費は最低で150万円となっております。今後、中小の工務店がこの制度に関心を持たれる場合には、相談の上、年会費を定めていこうと考えています。

これだけでは、本体事業としては赤字になっています。これに併せて国土交通省の補助事業に毎年応募し、4〜5件程度採択されて、ようやく収支が整うという感じになっています。


中村:JTI協賛事業者の手数料の関係はどうなっていますか?

JTI:住みかえのしくみでは、まず協賛事業者に当該物件の相場を調べて頂きます。例えば普通借家の家賃が10万円程度の場合には、査定額の上値(うわね:春の良い時期)が9万円程度、下値(したね:6〜8月・10月下旬〜12月の悪い時期)が8万円程度になります。

その15%が管理料となり、賃借人から頂いた家賃の85%が大家さんに支払われることになります。9万円の賃料ならば7万6500円、8万円の賃料ならば6万8000円です。


中村:その15%の内訳はどうなっていますか。

JTI:10%相当額がJTIに家賃保証の準備金として積み立てることが望ましいとされています。(現時点では、そこまで積み立てできていない様子。)残り5%分が、毎月管理料として協賛事業者に払われることになります。


中村:それでは、仲介した事業者は、仲介手数料の他に、毎月5%分の管理料をもらえることになるのですか。それってオイシクないですか?なぜそこまでオイシイしくみなのに、仲介事業者がもっと入ってこないのですか?なぜそのようなしくみになっていることをJTIのサイトでも書かないのですか?

JTI:説明会に来て頂いたJTI協賛事業者には、このこともきちんとお伝えしています。ただ、制度発足当時「ガイアの夜明け」でも紹介して頂いて、一時、協賛事業者がどっと増えたのですが、1年経って1/3程度に減ってしまったのが実情です。「お客の名簿がもらえる」と思われたのかも知れません。

私どもとしては、5%の管理料目当てで金儲けとして入ってこられるのではなく、お年寄りの生活のことを考えて住み替え支援をしているという理念に共感して頂けるような事業者に協賛事業者になって頂きたいと考えているのですが・・・。

なかなかその辺りのバランスで悩んでいるところです。


<注(中村)>この点は、けっこう重要なポイントだと思われる。JTIの理念とすれば、空家対策や住みかえ支援を中心に考えているが、そればっかりを行っていれば賛同する業者がなかなか現れない。しかし、理念にばかり拘ると参加してくれる事業者が少なくなる。悩ましい。


中村:協賛事業者の年会費12万円のメリットは何ですか。

JTI:12万円には一人年会費3万円の「ハウジングライフプランナー」の2人分の会費が含まれます。(事業所が複数ある場合等、ハウジングライフプランナーの追加は一人3万円になります。)

ハウジングライフプランナーとは、JTIが作っている資格です。お年寄りの住宅を扱うために、告知・カウンセリングなどが必要で、だましたりすることのないように資格制度を取っています。


中村:JTIの収支の件はだいたい分かりましたが、職員はどのような構成なのですか?

JTI:プロパーが6人です。うち大垣理事長は無休なので、有給スタッフは5名です。その他、住宅メーカーからの出向者は手弁当で12名です。


中村:手弁当ですか!?なぜ企業は出向者を出すのですか?メリットは何ですか?

JTI:「移住・住みかえ支援適合住宅」http://bit.ly/cz5sAs 等は、事業者側が出す広告にも載せられます。このような制度を維持することが広い意味で企業の営業戦略上メリットがあると言えます。


<注(中村)>もともと、この法人(JTI)は国交省の主導で作られた。設立の際にも大手住宅メーカーと相談する中で、人員(出向者)を提供して欲しいという国交省側からの要請があったようである。制度自体は悪いものではないが、中小工務店が積極的に活用しなければ、大手住宅メーカーのためだけの制度になってしまう。


中村:1981年より前に作られた「旧耐震」の建物は、耐震診断などを受けなくてはならないようですが、そのコストはどれくらいですか?

JTI:耐震診断は市区町村の助成金があるので指定業者があればそこを使ってもらっています。提携している木耐協も紹介はします。

住宅メーカーの建物は鉄骨などのデータを事業者側が持っているので、そのデータを使ってもらいます。耐震診断料は、5〜8万円程度です。

普通の住宅の場合は、3〜5万円の診断料です。図面がない場合には、別途、作図料が5〜6万円かかります。

そこで引っかかってしまったような場合には、80万〜100万円程度で改修することができます(構造擁壁を入れる、金物補強をする、基礎のクラックを補修する等)。

ただ、見積もりで500〜1000万円という数字が出てくることもあるのが問題です。MAXで400万円ぐらいでしょうか。賃料で3〜4年で取り返せるということであれば、利用する人が多いです。


中村:現時点で、何軒ぐらい利用があるのですか?

JTI:400〜500軒が査定された軒数です。査定自体は、近くのハウジングライフプランナー宅建業者)が参りますし、無料です。その後、入居が決まったのが200軒。100軒が、積水ハウスダイワハウスセキスイハイムパナホームミサワホーム等の住宅メーカーです。残り100軒が、一般の木造住宅です。

マンションは、引き合いが5%、仕上がりが2%ぐらいです(つまり入居が決まったのが4軒程度)。マンションの場合には、賃貸事業者も相場が分かりやすく、また大家さんも貸すことに不安がないため、一般の賃貸仲介業者を使うことが多いようです。

長期優良住宅だと十分に基準がクリアできる「移住・住みかえ支援適合住宅」http://bit.ly/cz5sAs は、現在3800戸が新築で販売されています。


<<<再現終了>>>


表現上、少し誇張している部分はあるかも知れませんが、内容的には今日のヒアリングの通りです。真摯に回答して頂いた、斉藤道生さん(専務業務役員・副代表理事)と片桐和幸さん(業務役員)には、感謝です。ありがとうございました。