「被災者に民間賃貸住宅を提供するしくみ」民主党「復興特別立法チーム」へヒアリング要望


3月16日、民主党に「東北関東大震災・復興特別立法チーム」が作られました。3月23日に、全体で第1回省庁ヒアリングを開催することになり、現在、民主党各議員にヒアリング項目を募っているところです。(省庁の手が取られるので、議員からの個別のヒアリングは自粛するようという指示が党から出ています。)


私が厚労担当と国交担当の事務局に送った「ヒアリング項目要望」の当該部分について、ブログの記事にしておきます。ヒアリング結果は、またブログで報告いたします。

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ヒアリング項目要望
「被災者に民間賃貸住宅を提供するしくみ」


被災地「以外」の自治体が被災者を受け入れるために「災害救助法」のスキームに、被災地以外の自治体が被災者に民間賃貸住宅を提供するしくみを導入する場合、どのような問題点があるか。


(具体的な提供方法としては(1)賃貸住宅を被災者に提供したい大家さんからの申し出を受ける受け皿づくり (2)家賃補助(金額は(大家さんの被災者に対する)ボランティア的な家賃がまかなえる程度の額。財源は全額国庫補助)というしくみが考えられる。)

(被災地以外の自治体であるので、自治体自体が借主となる一括借り上げのような大規模な形態は現実的でない。∵被災自治体とは異なり、どれだけの需要があるのか事前には分からない。)


(ヒアリングの趣旨)


厚生労働省が所管する「災害救助法」に基づいて仮設住宅は建設される。(「災害救助法の概要」4 救助の種類、程度、方法及び期間(1)救助の種類[1]避難所、応急仮設住宅の設置)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/saigaikyujo1.html


このスキームは、被災した自治体のみを対象にし、被災していない自治体は対象としていない。例えば、仮設住宅の建設は被災自治体のみができる。また、民間住宅を借り上げて、それを仮設住宅として被災者に提供するという手段も、被災自治体だけができる。


つまり、現行の災害救助法では被災自治体以外の自治体が自らの領域にある民間の賃貸空家を用意して、その自治体にゆかりのある被災者に来てもらうという手段については、財政的な措置を含めて用意されていない。

(追記2011/03/21:どうやら災害救助法の改正をせず弾力的運用を厚労省が行い、被災自治体以外の自治体も対象にするらしい。しかし全額国庫負担にはならない。被災地でない自治体が自己財源まで使って借り上げをするだろうか。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015jy4-img/2r98520000015jzl.pdf


平成20年度住宅土地統計調査によると、「空き家」総数756万7900戸のうち、賃貸用の住宅は412万6800戸を占める。(表番号「1」「居住世帯の有無(9区分)別住宅数及び建物の種類(5区分)別住宅以外で人が居住する建物数―全国(昭和23年〜平成20年) 」)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001029530&cycode=0


阪神大震災の直前の調査平成5年(1993年)と比べると、15年間で約150万戸の賃貸住宅の空家が増えていることが分かる。(平成5年は261万8900戸、平成20年は412万6800戸)

15年で増えた150万戸の内3割の45万戸、あるいは、現在ある空家賃貸物件412万戸の1割の41万戸が被災者向けの仮住まいに回るだけで、35万世帯といわれる仮住まいを要する被災者の需要を満たすことができることになる。


週刊東洋経済の記事によると「住宅は建築基準法上、2年間の居住が前提のため、建築費は1戸当たりで上限は238万7000円。基本はこの金額の半分が補助されるが、災害の規模に応じて、最大90%まで補助金額が引き上げられる。「今回の場合は災害の規模が大きく、90%までの補助になるだろう」(厚生労働省災害救助救援室)という。」
http://www.toyokeizai.net/business/industrial/detail/AC/e000f53d19f540d21f3b55622abfbc56/


仮設住宅の建設費用が有効期間2年で238万円。今回の被災規模では90%。238万×9割=214万円。つまり、賃貸空家の家賃保証を選択肢にした場合、2年の借り上げ費用が214万円以下であれば、借り上げの方が国家財政にとってプラスになる。


例えば、「空家を2年限定で被災者に開放しませんか?賃料は月5万円です。」という提案を大家にした場合。(契約形態は「定期借家」契約。)

国家財政の負担は、5万円×12ヶ月×2年=120万円にしかならない。地元の宅建業者を仲介者にして仲介手数料を1ヶ月分支払うとしてプラス5万円。計125万円で提供できることになる。

家賃が月7万円とした場合でも、168+7=175万円。2年間の借り上げ費用は最大で125万〜175万円なのだから、家賃相当額の補助を全額国庫補助としたところで、仮設住宅の費用の国庫負担分214万円よりも安くなる。


このようなスキームを作った場合に想定される問題は、このような手間のかかる案件の仲介をする宅建業者が地元に居ない場合。

このような場合には、その自治体にまちづくり系のNPOがある場合、その構成員に宅地建物取引主任の資格を持った者がおれば、「被災者への賃貸物件の媒介に限った宅地建物取引業(以下、「限定宅建業」)」というしくみを創設するという方法が考えられる。(既存業者との利害調整の見地から、「限定宅建業」の申請には、自治体が認める場合という要件を付けることも検討する。)

限定宅建業のしくみを作る場合には、「復興特別立法」として宅地建物取引業法の改正を行う。(家賃の収受代行業務については行わないか、行えるしくみにするのであれば持ち逃げのリスクについては保険でカバーし保険料は国庫負担とする。)

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以上がヒアリング項目としての要望だったのですが、仮住まいの本質的な問題は、地域のコミュニティが崩れてしまうことがにあります。生活の再建には総合的な取り組みが必要です。この政策も、そのごく一部の部分でしかありません。仮設住宅が作られるまでの期間という選択肢もありにしておく必要もあるかな、と思います。


同じ様なことを考えている方もいらっしゃるようです。
「被災地域外への仮住まい移転に関する(一抹の)不安」
http://fmeno.cocolog-nifty.com/fml/2011/03/post-756d.html


民間でも「仮住まいの輪」という運動が始まったようです。(PDFで企画書がサイトにあります。)この運動も、コミュニティの再編という難しい問題に直面することになるかも知れません。ただ今はこの善意の輪の広がりが、被災者の皆様の心を溶かすようになることを祈っています。
http://www.karizumai.jp/


いずれにせよ被災者に望まれる住宅をあっせんするしくみは、官民挙げて作らなければなりません。引き続き、頑張ります。