森林法改正:バイオマスエネルギーシステムへの第一歩


本日(2011/04/15)、森林法改正案が、全会一致により参議院で可決され、成立した。日本の山は荒れ放題で来たが、この法律の成立により、間伐放棄地を行政の手で管理できるようになった。


この意味は非常に大きい。私は以前のブログ記事で、経済のあり方として内需拡大のための3つの方向性を書いた。そのうちの一つが「国民のニーズはあるのだけれど、自給率が低い分野。」としての「林業政策」だった。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20081127

今回の森林法改正により、間伐放棄地を含めて中小所有地を30〜50ha(ヘクタール)の「団地」にまとめ、その団地単位で作業道・作業路を引くことが可能になる。


作業道・作業路により、森林の生産性は大きく向上する。
現地に赴くのに、徒歩で何時間もかかっていたのが、(林道→作業道→作業路という経路を通って)クルマで行けるようになる。幅2mの作業路には、グラップル(ユンボの先にショベルではなく掴む器具を装着したもの)や2トンダンプが入ることができる。これらとチェーンソーを加えた3点で、「森の仕事」は「里の仕事」になる。


倒された木は、谷筋に引くのではなく、作業道にウインチで引き上げられる。木を下に引くのは危険だが、上に引き上げるのは安全だ。このような山の仕事の変化は、生産手段が内燃機関により省力化されたからだ。トラクターや田植機やコンバインによりコメの生産が省力化されたのと同じように考えてもらえばいい。

グラップルにより作業道に引き上げられた木は、グラップルで掴んだままの状態でチェーンソーで枝払い(枝を切ること)や玉切り(出材の長さに切ること)をできるようになる。


このように、森林の「団地化」により、今まではコストに合わなかった間伐材等も出材できるようになる。当然、バイオマス原料になるしかないような質の悪い木でも出材できるようになる。


原発事故(原発震災)により、どのようなエネルギーシステムに変えていくのかということが議論されるようになった。

木材というものは、化石燃料と同じく、炭素を固定化したものだ。製材するのに適する資源としても、50年〜100年程度で循環できる。50年〜100年といえば、人間の感覚からすればとても長いが、石油や石炭が化石燃料として数億年かかるのと比べれば「再生可能エネルギー」として驚くほど短期間で調達できることが分かる。


現時点では、ユンボも2tダンプもチェーンソーも、石油をエネルギー源としている。ただ、この数年の経済の流れを見ても、電気が動力源にできるようになることは目に見えている。その電気を木という固定化された炭素をエネルギー源として供給できるようになれば、森の仕事は建材を作るだけでなく、エネルギーを自給できる仕事にもなる。


ドイツの先進事例を聞くと、木材のチップをエネルギー源とする暖房機は、ITにより高度化し、タイマーで自動的に部屋を暖めたり、インターネットを使って留守中から部屋を暖めたりできるようになっているそうだ。


これからのエネルギーの方向性。「新住協」などの住宅の「高気密高断熱化」により、住宅の消費エネルギー量を抑える。
更に抑えたエネルギーも、原発化石燃料由来のものからバイオマスなどの再生可能エネルギーにする。

このようなエネルギーシステムの改革により、日本はエネルギーを自給できるようになる。安全保障上も非常に重要だ。


今回の森林法の改正は、このようなビジョンの下に行われた。
政権交代の効果だ。こういう話をマスコミが書かないのは残念に思う。