あるべきエネルギー戦略とは何か

7月17日のツイッター。あるフォロワーの方から「質問。今後20〜30年を見据えた長期的なエネルギー施策のあるべき姿とそこでの原発の位置づけについて見解如何。」という問いかけをいただきました。

私は、「現実的には原発の新設は無理というところからスタート。再エネの問題点は資本をかければ現状の技術で解決できる。資本は国債の発行でまかなう。」と答えました。

質問者からは「ありがとうございます。支援組織等との関係も踏まえれば実現には険しい道のりがありそうですが。期待しております。」と返していただきました。

私は「現実的にはそれ以外の方法はないだけだと思います。」と答えました。


質問者は、私が電力総連(電力会社の労働組合)から支援されているために、「現実的には原発の新設は無理」と書いたことを心配されたのだと思います。ただ、私が感覚的に思うのは、現場で働く労組の組合員の皆様自身が、本音ではそのように思っていらっしゃると同時に、雇用の維持は果たされるということです。

仮に「脱原発」という方向に国民世論が行ったとしても、54基の原発廃炉には何十年もかかります。将来的に、民間が手を離そうとした時には、原子力にかかわる技術者を育てて行くためにも、国家的な関わりが必要という点には変わりはありません。それならば、現場は現場を良く知っている電力会社に担当してもらうということになるでしょう。(将来的には廃炉コストの国家負担も話に出ることになるでしょう。)

また、いくら自由化されたとしても、小売部門の圧倒的なシェアゆえの現場の仕事と配電部門の現場の仕事は変わりません。日本の主要エネルギーが「電力」でなくならない限り、私の選挙区の奈良県での電力会社の仕事はなくなりません。

今日は、この機会に、私が考える「あるべきエネルギー戦略とは何か」について書きたいと思います。


◇「主力は電力」は更に進む

そもそも「あるべきエネルギー戦略」ということを考えた時に、日常的に使うエネルギーの形として主力は何なのかという論点があります。私は、主力は「電力」以外にはなく、現在よりも更に電力が利用される方向に進むと確信しています。

これは、産業史(人類の経済史)と関係があります。


人類は今、第3の経済革命期にあります。第1の経済革命は、農業革命でした。ヒトが活きるためのエネルギーを、採取ではなく栽培という形で計画的に生産できるようになりました。蓄積という概念が生まれ、富が生まれ、支配・被支配という関係性が生まれました。国家が誕生する前提条件が整いました。

第2の経済革命は、産業革命でした。それまでヒトが使っていたエネルギーはヒトの人力や家畜の力(いわゆる「馬力」)でした。化石燃料を使い、蒸気機関を動かすことで、ヒトは自分たちの筋肉の代わりになる大きな力を手に入れることができました。ヒトは海を越えて移動できるようになり、支配・被支配の関係は拡大し、植民地が生まれました。戦争は「総力戦」と化しました。

今、私たちは第3の経済革命期である「情報通信革命」に直面しています。情報通信革命(ICT革命)の特徴は、「ヒトが脳の代替物を手に入れた」ということです。地球上で人間しかできなかった情報処理と複雑な通信を、人間の道具である機械でできるようになりました。その結果、世界はいま、「グローバル化」という構造的変化に直面しています。


産業革命により動力的な機械が誕生し、農業機械が農業自体を変えて行ったように、情報通信革命は、工場生産や農業・林業水産業も変えて行きます。

情報通信革命の主役は、「情報処理」を担当するコンピューターと「高度な通信」を担当する電気通信です。ともに電気をエネルギー源にします。(ここでの「通信」には概念的に放送も含みます。)

工業製品の代表格である自動車も、ICT化により電力化が進んでいます。結局、プラグインハイブリッドから電気自動車という形で、主力は電気自動車の方向に向かっています。

また、農業についても、ICタグを利用したトレーサビリティの拡充など、ICTを使うことによって、消費者と生産者が直接に繋がるしくみができはじめています。

このように分析していくと、これからの「あるべきエネルギー戦略」を考える際の対象は、電力以外には考えられないということになります。


◇ 太陽由来のエネルギー

人間が使うエネルギー源は、原子力以外、全て太陽が由来です。

石油・石炭・天然ガスは、「化石燃料」と呼ばれます。もともとは生物(植物)であり、光合成で炭素を固定化したものです。

太陽は核融合でエネルギーを生み出しています。地球の循環系を考えると、太陽由来エネルギーに限ることが望ましいのは明らかです。


太陽光パネル・太陽熱温水器風力発電は、太陽エネルギーを直接利用します。
バイオマス(生物資源)は、太陽のエネルギーでCO2を炭素に固定化します。


世界から争いをなくすためには、全ての人間が食足りて文化的な生活を送れるようになることが必要です。そして、その社会を続けていくためには、食糧やエネルギーが地球の中で持続的に生産できることが必要です。

太陽が続く限り、人類が続いていくためには、人間が出す廃棄物によって人類が存続不可能にならないように条件を克服していく必要があります。


原子力は、核分裂により自然にはあまり存在しなかった物質を大量に生成します。原子力廃棄物は、地球上に存在しなかったものであるゆえに、処理が大変難しい。今生成している原子力廃棄物は、人類のこれからにとってこれから先、長い時間をかけて処理して行かなくてはならない負の遺産となります。

それでも尚、地球温暖化への対応や大量のエネルギーを使う生産システムを維持するためには、当面は原子力に頼らざるを得ません。国家としては、その点を国民の皆様に理解いただけるように、体制を作っていく必要があります。


◇ 省エネが一番のエネルギー源

人間一人ひとりが生活する時、生活のレベルを落とすのはなかなか難しいです。しかし、環境的、外在的に、自分ではどうしようもない制約があった時には、人は工夫をします。

今までのようにエネルギーを使うことを前提にするのではなく、まず、エネルギーを極力使わなくても人間が快適に暮らすことができる「社会システム」を作ることに取り組むべきです。


私は民主党の中で住宅政策を担当し、省エネ住宅を推進して参りました。個々の既存住宅の躯体の省エネ性能を上げて省エネ住宅化を普及することで、生活にかかるエネルギーの総量を落としていく「社会システム」ができるようになるからです。

「省エネ」が「一番のエネルギー源」です。


◇ かしこい送電網「スマートグリッド

電気は無体物です。形がないという性質上、余剰電力は貯めることができません。もちろん、先のブログ「定置型大規模蓄電システム 〜 再生可能エネルギー普及の鍵」で述べたように、大規模蓄電池により貯めることは例外的に可能になりますが、あくまでも例外的な手段に留まります。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20110716

社会システムとして、(蓄電された電気を含めて)電気の融通をしようとするならば、各電力需要者の下に設置されている電気メーターを「スマートメーター」というICT化された電気メーターに変えなくてはなりません。

このようなスマートメーターによって送電網がICT化されたものを「スマートグリッド」と呼びます。

定義としては、「スマート(Smart=賢い)とグリッド(Grid=送電網)を合わせて作られた造語。電力網の末端(家庭やビルの計測器(スマートメーター))と供給側(送電施設等)に通信機能や計算機能を付加し、自動で電力の需要と供給を最適化できるようにする次世代の電力インフラ(技術)。(出典:サイト「スマートグリッド日本」http://smart-grid.hotcalpis.com/)という意義になります。


スマートグリッドが実現することによって初めて、蓄電された電気も現在発電されている電気と一緒になって、電力需要を社会全体で供給できるようになります。

現在、電気事業法により日本の電力メーターは、各電力会社がつけるしくみになっています。その結果、ここでも「ガラパゴス化」が進展しています。日本の電力供給は電力会社の「囲い込み」を前提にして体系が作られているので、スマートメーターは各電力会社ごとの仕様になっています。

世界ではマルチベンダー(どの事業者でも生産できる)が当たり前になっているスマートメーターですが、日本では独自性にこだわって、ここでも世界から取り残されそうです。

計画停電の時も感じましたが、日本の法体系は利用者目線で作られていないことを痛感します。スマートメーターの件も、技術的には実用化ができているのだから、後は国の方針ということになるでしょう。電気事業法の改正が必要になると思われます。


ちなみに、スマートメーターがマルチベンダー化する目的として一番大きな目的は、使用量をメーターごとにコントロールする機能をつけられるようになるということです。つまり「絞る機能」です。現在は、地域独占を許されている電力会社がメーターをつけているので、メーター単位で「止める機能」は「電力会社版スマートメーター」についています。しかし、「絞る機能」はついていません。(追記2011/07/20:事実誤認があったため削除線を入れました。)

全ての電力メーターに「絞る機能」がついていれば、計画停電の必要はなくなります。電力消費の総量を落とすためには、例えば、50A(アンペア)の契約のところでも、時間を区切って最大30Aに制限するなどの対応ができるようになるからです。また、変電所単位での「止める作業」が不必要になるので、病院などの電力供給が生死にかかわるようなところの電源確保もより容易になります。

(追記 2011/07/20)
「絞る機能」についてはPPSからヒアリングした時に指摘されたことを基に記述しました。しかし、7月19日にエネ庁からヒアリングをしたところ、「絞る機能」はスマートメーターでつけるのではなく、HEMS(ヘムス:ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)で行うことが国際的に整理されているという指摘を受けました。

もし、スマートメーターに「絞る機能」をつけると、現在世界で開発中のスマートメーターの数倍になることがほぼ確実になる。まさにガラパゴス化し、日本独自の仕様になってしまう。HEMSは、家電等の制御に使われるシステムなので、その負担は各家庭が負担することになります。

スマートメーターにHEMSの機能をつけた場合には、必要ないと考える家庭についても高価な機能をつけることとなり、メーターの値上がり分が電気料金に転嫁されるために社会全体ではムダになるし、広く理解を得られなくなるというのが、エネ庁の指摘でした。
また、計画停電というものは、社会的な負荷が大きすぎるので、電力の確保を行い、エネ庁としても今年の夏もさせないようにした。計画停電に備えてスマートメーターにその機能をつけるというのも、ムダが多いのではないかとの指摘を受けました。

確かにその通りなので、事実誤認をしていた部分については訂正をしておきます。


◇ 当面必要な化石燃料

「フクシマ」は、世界の原子力発電に衝撃を与えました。EUでもストレステストを始め、原子力発電の安全性をあらためて確保する動きが、3・11以後に出てきました。
原発のストレステスト」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20110717

原発は当面必要なエネルギー源としても、もはや新設は計算に入れられなくなりました。
海江田経産相も「菅首相の「脱原発」を批判」と題されるインタビューの中で、「従来のような(原発の)新設は無理。縮小は既定方針」と述べていらっしゃいます。今すぐの「脱原発」は無理でも、縮小の方向性自体は、社会全体の合意を得ていることだろうと思います。
(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/today/news/20110717k0000m010146000c.html


そうすると、当面は基幹的なエネルギーとして化石燃料が必要だということが分かります。化石燃料は、必要な時に必要なだけ使用できるので、人間にとって非常に都合の良いエネルギー源です。

もちろん、地球温暖化による生態系への影響や、エネルギー源としての枯渇の問題があるために、できるだけ早く化石燃料からの依存体質は脱却しなければなりません。しかし、当面は必要だということで、天然ガスの効率的な発電所を作るなど、より地球に負荷がかからないしくみを考える必要があります。


◇ 自立分散化型のエネルギーシステム

化石燃料を使うとしても、家庭用のエネルギーとしては、燃料電池は自立分散化型のエネルギーシステムとして重要です。「エネファーム」などの家庭用の燃料電池は、ガスを原料としながらも電気と温水が作れます。

また、原子力発電を続ける間は、夜間電力が余剰になります。大規模定置型蓄電池が実用化しない間は、夜間電力を効果的に使うしくみも必要です。「エコキュート」などのヒートポンプは、夜間電力を利用して投入エネルギー量の何倍もの効果で温水を作ることができます。

温水は風呂や台所だけでなく、冬場の暖房にも使えます。

このように、今までのような大量生産大量消費型の発電システムだけでなく、より効率的な自立分散型のエネルギーシステムを併用することで、大規模発電所に依存する負荷を減らしていくことができるようになります。


◇ むすびに

将来的には燃料電池の主たる燃料となる「水素ガス」の可能性など、まだまだ個別の論点はありますが、ここまでで35行のエディタで220行を越えました。既に冗長になっているきらいがあるので、今日のところはこれくらいにしておきます。御意見をいただいて、今後、加筆することに致します。


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