建設土木事業供給制約説+低所得者対策(飯田泰之先生)


飯田泰之先生が、建設土木事業供給制約説を唱えていらっしゃいます。飯田先生は若手経済学者として明快な発言をされている先生なので、皆さまにも紹介いたします。

基礎資料として昨年8月6日参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」の中央公聴会審議の議事録を上げておきます。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/180/0160/18008060160001c.html

私の飯田先生への質問については、他の論点もありますが、合わせて載せておきます。

塚田一郎 ありがとうございます。
 次に、飯田公述人にお尋ねをいたします。

 まず経済を良くしないと消費税増税をしても財政再建は成らないという御指摘だと思いますが、更なる金融緩和と財政出動が必要だということを言われて久しいわけですが、なかなか実際に経済が上向いてこないという状況もあります。

 具体的にもう少しお尋ねをしたいんですが、例えばインフレターゲットもそうですし量的緩和もそうですが、更なる金融緩和を具体的にどういう水準に設定をすることが必要かということと、財政出動を行うとしたらどういった分野にどういう規模で行うということが適切なのか、これについてまず一点。

 もう一つは、いずれ消費税の増税をする際に経済の好転が条件だということは法案にも書いてあるわけですけれども、実際の目標はまあ目標であって、それは必ずしも実現できなくても引上げはできると、総合的に判断をするということになっております。先生がお考えの消費税引上げができる経済状況というのは、具体的にどのような成長率、物価指数で、あるいはそれがどの程度持続的であれば消費税引上げができる環境か。

 この二点についてお聞かせいただきたいと思います。

○公述人(飯田泰之君) 第一点でありますが、金融緩和の水準又は方法に関しまして私が望ましいと考えていますのが名目四%成長を目標とした金融政策のルール化であります。ただし、これは直後にすぐに達成可能なものではありませんので、やはり当面、当初の目標にすべきは、二%のインフレ率を主な目標としたインフレーションターゲット、そして、そのために必要な手段としましてのより幅広い、外債を含めた量的緩和の必要性ということになるかと思います。

 また、財政出動に関しましては、こちら、私自身の持ち時間の中で説明し切ることができませんでしたが、現在、日本の財政支出、事公共事業に関しては極めて特殊な環境にあります。といいますのも、公共事業費を増やしても建築業界全体の生産量が余り増えない、つまりは公共事業が民間事業を食うという現象が起きております。これは、公共事業また建設土木業界に供給制約がある場合に起きる状況であります。そのため、財政出動を行う場合は、ゆっくりと増やしていく、又は分野を従来のものとは異なるものに振り分けていく必要があるかと思います。

 また、消費増税を行うために必要な経済状態ということですが、複数年にわたって名目三%以上の成長が行われていること、そしてもう一つは、これは数値目標ではありませんが、社会保障改革の姿が見えることによって必要な増税幅というのを示せる、つまり、幾ら掛かるかを示すことができたときというのが条件かと思います。

 以上です。

塚田一郎 飯田先生に追加でもう一点お伺いしたいんですが、法案に事前防災ですとか減災のインフラ整備ということが十八条二項にあるわけですが、これはなかなか収益性で判断をできない分野の、しかしながら人の命と暮らしにかかわる重要な投資だということで我々としてはそういう内容を盛り込ませていただいているわけですが、こういった点についてどのように評価されますか。

○公述人(飯田泰之君) 現在、被災地の雇用情勢を見ておりますと、一番多くの問題は、主要都市、具体的に言いますと仙台市近郊以外での大幅な人手不足状態であります。

 といいますのも、今回の復興をめぐる公共事業というのが長年にわたって継続されるとはちょっと思い難いと。その一方で、現在の土木事業はかつてのイメージとは異なりまして高度に技術化された職であります。したがって、三年間限定の職に就くために例えば半年間職業訓練をするという選択を行う労働者は少ない。その意味で、現在日本の土木業界は供給制約状態にあると考えられます。

 そのため、事前防災も含め、土木公共事業によって景気の振興を図るというのは極めて困難な状況にあるというのが私の理解でありまして、その一方で、必要な事前防災を行うためにはかなり長いスパンを掛けてゆっくりと増加させていく、ゆっくりと準備をしていく必要がある。つまりは、土木建設業界の供給能力の上限というのをたたかない形、又は、長期的に続く事業であるため、職業訓練をした上での労働者の参入が見込めるような形で事業を行っていく、やはり数十年単位での事前防災、国土づくりというのを考えなければいけないのではないかと思います。

中村哲治 国民の生活が第一中村哲治です。

 まず、飯田先生に伺います。

 この三党合意の議論以降、社会保障と税の一体改革が、社会保障と公共事業と税の一体改革と、まあ三位一体改革になってしまったわけでございますけれども、今日のお話の中で明確に御説明いただきました。土木建設業界の供給能力の問題から十分な波及効果が得られない可能性があるというようなコメントもされております。

 私も同じことを主張しておりまして、十年間で二百兆円とか十年間で百兆円とかいうような数字でカンフル的に公共事業を増やすような政策というのは、土木建設業というその業界の供給能力が、すぐには増やせない、すぐに減らせないという性質から、ちょっとそういうふうなカンフル的な政策というのはもう時代に合わないんじゃないかと申しておりましたので、そのことを先生のお口からはっきりと言っていただいて、今日は本当に胸のすく思いがいたしました。

 そこで、ただ、先生の今日のお話の中で、量的緩和、金融緩和を更に進めるべきだという御主張がありました。四%というあるべき数字はあるんだけど、取りあえず二%台でどうかというようなお話もありました。

 しかし、クルーグマン、今日御紹介もありましたポール・クルーグマンプリンストン大学の教授が、PHP研究所の「Voice」二〇一二年二月号でこのようにおっしゃっています。インタビュアーが、「最も望ましい財政政策と金融政策のベストミックスはどのようなものでしょう。」と。で、クルーグマンはこのように答えています。「完全雇用に近いかたちにまで経済を戻せるように、かなりアグレッシブな財政拡張政策をとるべきです。さらには次の五年間に二〜三%のインフレ率になるよう、金融緩和を組み合わせなければならない。」、このようにおっしゃっています。

 つまり、金融緩和とやっぱり併せて財政拡張政策を取らなければ、なかなかこの金融緩和の効果としてのインフレ率の上昇というのはなってこないんじゃないかというふうに主張されているわけですけれども、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

○公述人(飯田泰之君) 財政政策の効果につきましては、近年の経済学の先端的な研究でありますと、やはりこのようなデフレ状況においては財政政策は大いに有効性が高いという結果が言われております。その一方で、日本においては、財政政策の効果が計量的に見ますと低下しております。一つ私自身がこのパズルを解く鍵だと思っているのがこの供給制約の問題でして、ということは、使い道を変えれば財政政策は有効である可能性は残されているということかと思います。

 そのように考えますと、一つ重要な景気対策又は財政政策の支出先としてあり得るのが低所得者への給付ではないかと。その意味におきましても、今次の消費増税低所得者に負担を求めます。通常、低所得者の方が消費性向、収入のうち消費に回す割合が高うございますので、通常は低所得者に給付を中心的に行うならば消費を刺激する、逆に高所得者に給付をしても効かないというのがごく一般的な経済学の知識です。その意味におきまして、財政政策を行う場合は、低所得者、経済的な弱者を中心に、そこにお金が回る形、制度というのを考えていく必要があるかと思います。

中村哲治 今の御答弁、非常にもっともな御答弁だったんですけれども、更に提案といいますか、ちょっとお聞きしたいんですけれども、人材育成の部分にもう少し政府支出を増やしてもいいんじゃないかと。特に、コンクリートから人へという言葉もありましたけれども、人への投資を増やしていくと。教育、それから子育て、それから医療や介護の部分に関しても、やはり医療クラークを増やしていくとかいう意味も含めて、社会保障分野で、人材のところに政府支出を増やしていくということによって可処分所得を増やして、そして経済を回していくという手法があると思うんですが、こういう視点はいかがでしょうか。

○公述人(飯田泰之君) 人材育成に関しましては、対GDP比で見て教育関連予算が最も少ない先進国が日本であります。また、教育年度におきましても、日本は、先進国の中では非常に高校卒業者、つまり大学に進学しない方の割合が多い国としても知られます。
 しかし、現在、国際的に産業構造が変わっておりまして、比較的、高卒ブルーカラー、長期雇用によって熟練工へというキャリアパスというのがなかなか成立しづらくなっています。この流れというのが数年で転換することは私はないのではないかと。その意味におきまして、高等教育に対する更なる無償化の枠を広げ、現在、高等学校ですら経済的な理由による退学者が急増していることが指摘されている。低所得者が高校そして大学に進学し、十分学ぶことによって、今後の知的な形での主にホワイトカラー労働を中心とした社会体制というのに順応していけるような投資が私自身も非常に重要性が高いのではないかと考えます。

中村哲治 飯田公述人に、さらに二十ページのところの記述についてお伺いいたします。

 いわゆる消費税には逆進性が問題となってまいります。先生は、「逆進性への対応としての複数税率化は消費税の第一の利点を損なう」と、この複数税率化に反対をしておられます。ここの理由を詳しく教えていただけますでしょうか。

○公述人(飯田泰之君) 今回の説明資料における中心的な課題としまして、消費税が財政再建に資するかという話であります。その点におきまして、複数税率化といいますか、軽減税率を完全適用いたしますと、非常に、実際消費税による収入というのが減少してしまう、それであると元々の消費税増税の意義そのものが低下してしまうのではないか。そのため、複数税率を提案するのであれば、それであれば元々消費税増税に反対していただきたいというのが一つ。

 もう一つは、複数税率といった形ですと、次に登場するのがその選定プロセスであります。つまり、どの商品は軽減税率、どの商品は軽減税率にしないといった場合に、これは非常に政治の力が強くなり過ぎる。つまり、産業界の今後の行く末を、例えば税制に関する審議会が完全に決めてしまうことができるという数年間がやってきます。この決定プロセスというのが、もちろん透明化に対して大いなる努力されると思いますが、どうしてもグレーな部分が残らざるを得ない。その点において、複数税率というのは政治プロセスが非常に困難なのではないかという意味で私自身は消極的であります。

中村哲治 私も複数税率化には反対をしております。

 一つの議論としては、複数税率化すると、政府の試算では、一〇%のときに二・五兆円から三兆円掛かると。同じ財源を使うとこういうことができるんですね。大体所得税基礎控除の額三十八万円ですから、一人当たり四十万円は消費するだろうと。五%掛けると二万円ですから、二万円を全国民にペイバックすると、これは二・五兆円でできます。そうすると、この軽減税率をするのと同じぐらいの効果、更にもっと、逆進性緩和ということになると低所得者に比率的に厚くなりますから、こういった形で簡素な給付措置を行うということの方が、どちらかを選ぶということであれば、軽減税率よりもこの簡素な給付措置の方が効果的なのではないかと考えられますが、この点についていかがお考えでしょうか。

○公述人(飯田泰之君) もう一つの複数税率への問題点の指摘としましては、例えば食料品に関して軽減税率をしいた場合、食料品を消費しますのは低所得者だけではない、もちろん高所得者も金額の面では低所得者以上に食料品を買うわけでございます。そうしますと、ある意味、もちろん格差是正の効果は有しながらも、余りにも予算規模としてお金が掛かり過ぎるのではないか。つまりは、高所得者も同時に減税しながら減税の幅が低所得者に大きいというのは、ある意味非常に持って回った議論になっているかと思います。それであれば、マイナンバー制を通じて所得把握をした上での直接的な低所得者への給付という形。

 やはり日本の再分配、これまで大きな問題というのが、年齢、地域、職業等のある意味所得以外の要因による再分配方針というのが中心になっておりました。その結果現在生じているのは、再分配の結果不平等度が上昇するという世界唯一の国になっているわけであります。その中で、そういったものを是正するためには、やはり低所得者への対策は所得を基準にするという、最も直接的な方法の方が望ましいのではないかというのが私の見解です。