高所得者への減税が経済成長に繋がらなくなった理由


質問@wanitoraionxさんから(ツイッター

中村先生、質問です。今、お金をもっている人に何を買わせたいですか。教えてください。

回答

人を雇って人材育成をしていただきたいです。こんな答えでいいのかな。

感想

ありがとうございます。名古屋大学名誉教授の、故飯田経夫先生の言うことなのですが、結局、98年頃当時、減税がむなしいと、一体何を買わせるのか、無理やりもっと食え、もっと食えと消費者に言っている、と書かれています。 via web
2013.02.09 12:46

さらに、イノベーションが期待よりも「パンチ力」が低く、「行き詰っている」と書かれていました。だから、あらゆる人が、「成長、成長」と書いてるのだけども、何を誰に買わせるのだろうなぁ、と思っています。中村先生のお答えはなるほどなぁ、と思いました。 via web
2013.02.09 12:50


解説
このやり取りから、「なぜ、高所得者の所得を増やしたところで、経済成長しづらくなったのかということを書かなければいけないなあ」と思いました。

つまり、高所得者への減税が経済成長に繋がらなくなった理由」です。

結論からいえば、高所得者にいくら貨幣を集中させても、不況ゆえに投資をしようにも回収が見込めず、投資をためらう。その結果、新しいイノベーションを起こすような分野に投資する企業は必ずしも多くなく、デフレを脱却するような程度の投資状況は民主導では作れないということです。

だから、順序としては、投資よりも消費。そのための環境整備を政治はするべきという発想になります。


今は、世界的にデフレの傾向にあります。先進国全てで供給過剰の状態になっています。1990年代初頭の日本から始まり、リーマンショック後のアメリカ・ヨーロッパと続いています。

確かに、アメリカは、FRBの金融緩和が効いているので、ちょっと毛色が違っています。でも、日本とヨーロッパは、供給を増やせば需要がついてくるという状況ではなくなっています。

ちなみに、アメリカがなぜ金融緩和の効果を発揮しているのかといえば、FRBによるMBSの買取が住宅産業を底上げしているからです。

日本はMBSの市場もなく、その前提となる中古住宅市場もないので、日銀は同じ手法を使えません。ただ、その話は今ここでの話からズレるので、また質問があれば答えることにしましょう。(『財務省の罠』でもすでに書いてことでもありますし。)


それよりも大切な視点は、「いまは世界的に、供給過剰の状態になっていて、どうやったら需要を作り出せるのか」という視点です。

なぜ、私が、ヨーロッパにしても日本にしても金融緩和だけでなく財政を拡大する必要があると申し上げているのか。それは、もはや金持ち優遇をして金持ちに投資のための余力をつけさせたところで、供給が増えた商品を買えるような人を増やさなければ、その余力は投資につながらないという状況になってしまっているからです。

以前のブログ財務省幹部著書に見る「財務省の罠」」でも書きましたが、日本では、デフレの中、企業が借金を返し続けています。
(チャート)
http://f.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20121101181349

このチャートを御覧になってお分かりの通り、2000ゼロ年代に金融緩和をしても、その結果、大企業の内部留保を増やすことはあっても、新しい投資にはつながっておらず、企業がフローでは貯蓄主体になっていることが分かります。

このような状態で金持ちを更に金持ちにしたところで、金持ちは投資も消費もせず、預金として持ち続けることになってしまいます。

これでは、お金は動きません。


この状況でやらなくてはならない経済政策は、「実際にお金を使う傾向にある層の可処分所得を増やす」という政策です。

経済政策としても、子ども手当や高校無償化、更には大学の無償化をする必要があるのは、消費傾向の高い中低所得者層に可処分所得を増やしてもらうという効果があるためです。

サラリーマンが困っているのは、教育費と住宅費です。

その二つの負担を軽減することで、可処分所得は増え、需要は増えます。需要が増え、供給とのギャップが埋まることで、景気が回復してデフレが脱却されます。

民主党の前原さん(前経済財政担当大臣)の経済政策は規制緩和が主でした。それは、現時点では効果があるとは思えません。規制緩和は供給を増やす政策であり、需要を増やす政策ではないからです。

いまは、安倍さんのやっている公共事業を増やすという政策の方がまだマシと言えます。元民主党員の私としては残念なことですが。金融緩和によりだぶついている銀行の決済資金(貨幣)を国債の発行により政府が吸い出し、それを政府支出を通じて民間へ移転することで、民間が自由に使える貨幣の総量が増えるという効果があるためです。

ただ、さらに効果があるのは、直接家計に働きかける政策です。

ここで、2つの政策的な方向性を同時に達成できる政策があると分かります。一つは、家計の教育負担を減らして「人への投資」を行うという社会政策的側面。もう一つは、可処分所得を増やして個人消費を拡大するという経済政策的側面です。この2つの政策を同時に達成できるのは、子ども手当や高校無償化です。

このようなデフレ下にある状況では、これらの家計に直接働きかける政策が重要な政策となるということが分かります。


私が、金持ちにやってもらいたいことは、人を雇って、人材育成をしてもらうということです。もっと狭く具体的にいえば、次の世代を担う若い世代にチャンスを与えて、起業を任せてみるということです。

この部分でソーシャルビジネスの可能性も出てくるのですが、話が散漫になってしまいますので、今日はこれくらいにしておきます。私が「NPO公益法人改革」で、ソーシャルビジネスのための公益法人改革に取り組んできたのは、資本主義社会が変容してきているからです。

また質問が来たら答えて参ります。


生活の党(奈良県第2区)中村てつじ
公式サイト http://tezj.jp
ツイッター http://twilog.org/NakamuraTetsuji/asc
メール 御意見を賜りますよう、お願いいたします。m@tezj.jp