中村てつじ「日本再構築」ブログ

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第19回「米国大統領にトランプ氏」カギは日本の住宅政策

住宅産業新聞 連載「住宅産業が日本経済を救う」

2016年(平成28年)11月24日(木曜日)号

第19回「米国大統領にトランプ氏」カギは日本の住宅政策

 

【米国新大統領】

 事前の予想を覆し米国新大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれた。トランプ氏の主張の特徴は経済を優先し世界の警察官という役割を終えるというものだ。TPPは米国の製造業にマイナスであるため反対の立場をとり、また在日米軍基地についても駐留経費を日本に更に負担させる主張をしている。だから日本にとって好ましくない大統領だという見方もあるが、私はそう思わない。我が国がトランプ政権と連携し適切な対応を取れば、両国共に更なる経済成長を遂げることができる。

 TPPについて日本では十一月十日に衆院本会議採決がされたが、反対を表明しているトランプ氏が新大統領になったことで発効は難しくなった。安倍政権はTPPがアベノミクスを進める手段だと言ってきたが、そもそもTPPは国際金融資本のための投資家保護協定にすぎず、発効できなくても日本経済にはマイナスはない。

 トランプ氏は大統領選挙の勝利宣言で、現在傷んでいるインフラの整備を行い、雇用を創出すると冒頭に述べた。額面通りに受け取れば、財政を拡大して積極的な公共投資を行う政権になる。この点で懸念されるのは従来の米国共和党が「財政の崖」に見られたように新規国債の発行に消極的だった点である。しかし、政権が共和党になり、国民の団結を訴えるトランプ氏がその手段として公共投資を行い、そのための財源が必要ということならば共和党が多数を占める議会も同調する可能性が高い。そのため今後の米国経済は更なる成長が予想される。

 ここで安倍政権が行いそうなことは、新政権と相談した上で円売りドル買いの為替介入を行い、そこで得た円で米国債を買うことである。トランプ氏は選挙戦において日本の為替操作を批判していた。しかし米国政権と事前に協議を行い、その発行する米国債を日本政府が引き受けるという内容ならば日本政府が行う為替介入をトランプ政権が容認する可能性は高い。円売りドル買い介入について私自身は円安によるコスト高をもたらすために消極的な立場であるが、日本の世論・マスコミ・産業界が円安を望んでいるため、ありうる。前例としては二〇〇三年に行われた三五兆円にも上る円売りドル買い介入がある。巨額の為替介入を米国政府は批判しなかった。二〇〇三年はイラク戦争が開始した年であり、実質的に戦争の戦費調達に日本国政府が一定の役割を果たしたと言えるからかもしれない。

【米国が払う利息】

 これからの日米関係を考える上で押さえておきたい事実の一つは、日本が外国に対してどの程度お金を貸しているのかという視点である。財務省が公開している「本邦対外資産負債残高の概要」によると、昨年末で外国への投資が九四八兆円、外国からの投資が六〇九兆円、差し引き三三九兆円が日本から外国に対して投資している純投資額であり、この額は二五年連続して世界一である。よく外国から「日本は金持ちの国だ」と言われるのは二五年も連続して外国への貸し付けが世界一だからである。

 それでは米国との関係ではどうだろうか。日本から米国への金融投資額は民間が二〇九兆円、そのうち債券での投資額は一三九兆円である。また、米国からのドル建ての債券投資額は十二兆円であるので、差し引きすると民間では一二七兆円分をドル建てで米国に貸していることになる。これに加えて日本政府が保有する「外貨準備」が一四八兆円もある。このほとんどは米国債と思われるので、だいたい日本全体で米国に対してドル建ての債券を二七〇兆円程度も持っていることになる。

 日本政府が保有する「外貨準備」は「外国為替資金特別会計」に現れる。平成二六年度の決算ベースの数字で二兆四千億円の運用収益を上げている。つまり米国債と想定される外国債の利息が年間で二兆四千億円も政府の収入として入っているのである。ちなみにこの利息は米国債の利息だと思われるためドル建てで米国から支払われる。しかし、利息のドルを円に替えるとドル売り円買いの為替介入になって円高になってしまう。だから、毎年同額の米国債を買うことになっている。民間が保有する米国債の場合にはもう少し柔軟に運用されているだろうが、それでも相当大きい額の再投資が米国債で行われていると思われる。

 以上を総合して米国の立場から見てみると、日本政府は大量の米国債保有し、米国政府は毎年二兆円以上の利息の支払いを日本政府に強いられている。日本政府は円安になっても円を買い戻さないので、ひたすらドル建ての米国債を貯め込んでいく。米国政府は毎年払う利息が増えていく。貯めておくだけならば使ってくれという気持ちになるだろう。先日、私は米軍機オスプレイのテストフライトを佐賀空港で見たが、自衛隊は一機二〇〇億円のオスプレイを十七機購入することになっている。総額三四〇〇億円にも上るが、米国の立場からすれば日本に払っている利息の一部でオスプレイを買ってくれという気持ちになるのも理解できる。

【鍵は日本の内需拡大

 結局、米国大統領がトランプ氏になったところで一番問われているのは私たち日本人自身だ。鍵は日本の内需拡大をいかにして果たしていくのかに尽きる。

 米国は日本に対して米国製品の輸入を求めてくることになるだろう。私たち日本人は戦後貧しかった時代の影響で輸入は悪であり輸出は善であると思いがちだが、経済的には輸入も輸出も増やして行くことこそが経済成長に繋がる。例えば住宅を作る時に国産材だけでなく輸入材も使っていることで高付加価値の住宅が作れている現状を見れば明らかである。輸入した物を輸送するにも加工するにも必ず国内で付加価値が生まれる。だからこそ輸入を増やして総需要を増やすという方針が重要になる。

 米国製の家具、建具、建材。住宅産業が盛んな米国だからこそ、質の高い商品は米国にも多い。もっとも、建具や建材の輸入は日本と米国で規格が違うので簡単にはいかないし、家具にしても米国製品の売り込みには米国企業の努力も必要である。ただ、それらの制約を解決しつつ、政策的に日本の住宅需要を増やす政策を採ることによってそれらの輸入を促進され、結果、米国経済も日本経済も共に発展する起爆剤になる。

 そこで、どのようにすべきか。

 現在、経済統計を見れば日本経済は賃貸住宅の建築によってかなり助かっている。しかし、これは相続税増税されたことに対する相続税対策とマイナス金利政策による建築ローン金利の低下が要因であり、持続的な需要というよりは一時的な需要だと分析した方がよい。賃貸需要を支える方法が取られなければ続かない。

 結局、従来から述べてきていることではあるが、日本の分配の方法を変えるしかない。本来、内部留保を貯め込んでいる大手企業が自社の従業員の給料を正規社員、非正規社員共に増やしたり、仕入れ先の企業から少し高く仕入れたりすることが社会的には必要になるが、現状、市場経済に則って動いている以上、なかなか直ぐには変えられない。

 そこで、政策的には直接国民の可処分所得を増やす政策を取ることが必要になる。財源には国債の発行を充てればよく、そのリスクは連載の第5回~第10回で述べた通り物価上昇のリスクに限られるし、①人口減少社会になっていること②分配が偏っており消費が伸びにくい構造になっていることの2点によりなかなか物価は上がらないため物価上昇のリスクも限定的である。現状の日本経済を見れば、物価上昇のリスクを恐れて内需拡大策を採らないことの方が最大のリスクだと思える。

 具体的な方法としては第13回で述べたような若い世代への所得補填の政策の他、賃貸住宅に住む者に対する家賃補助という政策も考えられる。現在、持ち家の所有者には住宅ローン減税が行われているが、賃貸住宅の居住者には減税がない。そこで公平の観点から賃貸住宅の居住者にも経済的メリットがもたらされれば賃貸需要を支えることができる。

 さて、今年の連載は今月で終わり次回は来年二月になる。今回お伝えできなかった物価目標達成の先延ばしなどをお伝えしたい。今年も読者の皆様には感謝を申し上げたい。