書評:井上智洋著「ヘリコプターマネー」

久しぶりにブログを更新します。好著に出会ったので御紹介致します。以下の内容はアマゾンの書評にも書きました。

ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネー

後世の歴史家が「21世紀の世界諸国の経済政策はこの本から始まった」と評するかもしれません。本書はそれほどのポテンシャルを持った著作です。

信用創造(=銀行による預金設定)には「銀行による貸し出し」(第1の経路)と「国債の新規発行+その分の政府支出」(第2の経路)があるのですが、私が現職の国会議員の時代に国会図書館に調査を依頼して調べてもらった結果、第2の経路について明確に述べた著作は存在していませんでした。(厳密に言えば、土屋貴裕氏「銀行の国債保有が預金を増やす」(大和総研資本市場調査部)(2012年3月15日)の論文1本だけです。http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/12031501capital-mkt.html

つまり、本書は「国債の新規発行+その分の政府支出」が信用創造(第2の経路)を生み出すことを初めて書籍で述べ、今のデフレ傾向の原因は、信用創造が足りていないことにあると理論的に述べた初めての書籍になります(国会図書館の専門調査員に調べてもらった限りにおいてですが)。

確かに実務家から見れば突っ込みどころ満載の記述(※下記注参考)もありますが、それらの点は本書の素晴らしい内容の前では枝葉末節と言える話であり、今後、この本を出したことにより各方面から指摘が著者になされ、それを元に修正をかけられると思います。

本著作が起点となって、日本経済、世界経済が大きく成長していく未来を期待したいです。(評者は元衆議院議員(2000年〜2005年)・前参議院議員(2007年〜2012年))

※ 例えば法定準備率を100%にするという御主張です。法定準備率を100%にするためには、日本銀行が商業銀行が持っている貸金債権も買い取り→保有しなくてはならなくなり、不良債権日本銀行が抱えざるを得なくなります。そうすると、結局、貸し付け1件1件まで日本銀行が審査せざるをえなくなり現実的でないという理論上の問題と、今は銀行間の競争がありますが全く銀行間の競争がなくなってしまうという経済上の問題があります。

追記1 http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20161225
追記2 http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20161227


民間が使えるお金を増やす方法=「信用創造」の第2の経路については3年前のブログで詳述しています。御参考にしていただければ幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130907