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第22回「住宅ローン金利の行方」物価上昇率超えぬ水準で

住宅産業新聞 連載「住宅産業が日本経済を救う」

2017年(平成29年)4月27日(木曜日)号

第22回「住宅ローン金利の行方」物価上昇率超えぬ水準で
 

【金融政策と連動】

 住宅ローンの金利日本銀行の金融政策により影響をうける。特に「固定金利」の住宅ローンは「長期金利」と呼ばれる償還まで10年の国債金利と連動している。住宅ローンについては第17回で触れたが、今回は金利そのもののしくみに焦点を当てて住宅ローン金利の見通しを論じてみたい。

 黒田東彦日銀総裁になって丸4年が経ち、日本銀行が発行するお金の総量「マネタリーベース」は134兆円から436兆円へと302兆円増えた。しかし、民間に流通するお金の総量「マネーストック(M3)」は1141兆円から1286兆円へと145兆円しか増えていない。経済学の通説では日銀が発行するお金を増やすとそれを元手にして銀行がお金を作り出し、日銀が増やしたお金の数倍の量のお金が民間に流れるという説明がされてきた。しかし、現実には日銀が発行したお金は銀行で止まり、半分も民間には流れていない。

 通説も見直しを迫られている。このような場合にはまず基本に戻ろう。金利はどのように決まるのか。

金利の理論値】

 仮に1年後に返してもらう場合に何%の利息をつけて貸せば損をしないだろうか。この点、金利の理論値は予想インフレ率+信用リスクで決まると言われている。予想インフレ率とは、今後の物価上昇率のみこみである。

 仮に、これから1年間で物価が2%上昇するとみこまれる場合を考えてみよう。貸す側は少なくとも2%の利息は欲しいと考えるだろう。なぜならば、利息が2%なければ人にお金を貸すよりも、いま物を買う方が得だからである。いまでも1年後でも同じ価値の物が買えるには2%の利息をもらわなければ同じにならない。だから、物価上昇率のみこみは金利を決める第一の基準になる。

 次に、借り手の信用リスクが加わる。AさんとBさんではお金を返してもらえる可能性は違う。だから、AさんとBさんとでは借りる時の利息も違ってくる。但し、政府が自国通貨建てで借りる場合には返せないことはあり得ない。信用リスクはゼロとして計算される。

 以上から、国債の場合、金利の理論値は予想インフレ率と等しくなる。

【金融政策で決まる金利

 しかし、実際には、国債の市場金利は、日本銀行の金融政策に引きずられて理論値からズレる。もし、物価上昇率2%を中長期的に達成できると市場が判断すれば、金利も2%以上になるはずである。しかし、今は日本銀行の金融政策により、国債金利はゼロ%辺りに誘導されていて、物価上昇率との関係は切り離されている。むしろ物価上昇率が2%になるまで金利は低い水準にとどめると日銀は約束している。

 なぜ、日銀が金利を低めに誘導しているのかといえば、金利を低めにすることによって消費や投資を増やそうとしているからである。

 まず消費について見てみよう。物価上昇率が1%ぐらいと予想できる場合には、ゼロ%辺りの国債や預金でお金を運用して1年後に物を買うよりも、いま買う方が実質的に安く買える。だから日銀が金利を抑えることで社会全体の消費が増え、需給バランスも需要が増える方向に向かう。そのことで、さらに物価が上昇するという流れに誘導しようというのが日銀の狙いである。

 次に投資について見てみよう。消費が増え、物価が上昇していく局面では、早めの投資を行えば、消費が増えることに合わせて供給を増やし企業収益を増やすことができる。金利が下がれば投資にも踏み切りやすくなる。このように、金利が低くなれば投資は増えるという考え方がとられている。

【欠けていた視点】

 しかし、実際には日銀が狙った通りにはなっていない。金利がいくら下がっても賃金が増えていないため消費が増えないからである。自分は物を買わないし物価も上がらないと実感している人を基準にすれば、予想インフレ率は上がらない。また人為的に金利が下げられると利息収入はむしろ減る。可処分所得が増えない中で、物価だけが上昇すると消費は伸びるどころか停滞する。だからデフレ基調から抜け出せない。

 また、金利が下がれば投資が増えるという仮定も、あくまでも消費が増えていることが前提になる。消費が増えるという見通しがつかなければ投資をしても回収できない。

 つまり、消費を増やす政策を打たなければいくら金融緩和をしても効果はない。日銀の佐藤健裕審議委員が米国エール大学での講演で「労働市場改革が重要」「金融政策単独での効果に限界がある」(3月29日日経新聞電子版)と述べているのは、予想インフレ率を上げるためには賃金を上げて消費を増やすことが必要だと認めているからに他ならない。

 それならば、どうすれば賃金は上がるのか。

 いま地域の経営者から聞く声は、人材不足だという声だ。労働力は逼迫している。市場原理によれば賃金は上がるはずである。しかし、現実には上がらない。それは、企業収益が上がらないからだ。貸し渋りを経験した日本の企業は内部留保を厚くしなければ企業を存続できないと考えている。つまり、中小企業の収益がさらに上がらない限り、日本の労働市場では賃金は上がらない構造になっている。

 だからこそ、まずは企業収益を上げる必要があり、それには消費を増やす必要があり、それには可処分所得を増やす必要がある。可処分所得を増やす方法として先に賃金を上げる方法がとれない以上、国民の負担を減らし国民が自由に使えるお金を増やすこと、つまり、社会保険料の軽減や消費税の減税が必要不可欠の経済政策になる。これが論理的な帰結だ。

金利は上がるのか】

 黒田総裁の立場に否定的な学者の中からは、そのうち長期金利は上がらざるをえないという見方も示されている。現在日銀は年間80兆円規模で国債を買っているが、もう間もなく市場に国債が出回らなくなり人為的に下げている長期金利も上がって来るという主張である。

 しかし、理論的に考えれば、そう簡単には金利は上がらない。市場に国債が出回っていなければいないほど、少し国債を買増しするだけで国債の価格は上がる。つまり、国債金利を下げることができる。日本銀行ならば原資となる日本円はいくらでも発行することができる。このように、市場から国債がなくなるので金利が上がるという主張には根拠がない。

 さらに言えば、今までは日銀当座預金に利息が付いているから銀行は日銀に国債を売ってきた。前回述べたように、銀行にとって国債は私たち民間人の定期預金のようなもので、できれば利息のつかない日銀当座預金よりも国債を持ちたい。現状では日銀当座預金のうち210兆円にはプラス0・1%の金利がつけられていて、日銀当座預金にお金を預けていても銀行は損をしない。仮に国債の価格が暴落=金利が上昇するような局面になった場合には、日本銀行は自ら国債を買い増す他に、日銀当座預金につけている金利をゼロにすればよい。銀行は日銀当座預金を手放すために国債を買い、速やかに国債市場から国債はなくなり市場金利は下がる。

【出口はどこにあるか】

 これまで述べてきたように、住宅ローン金利が今のような史上最低レベルの水準から抜け出して行くには、日銀が利上げに転じる物価上昇率2%を達成することが最低条件になる。しかし、日本銀行は昨年11月に物価上昇率2%の達成時期を2018年度ごろとした。5回目の延期だった。もうすでに残り1年半~2年しかない。公表されている直近のデータを見ても、物価が上がるような気配はない。財政が大幅に拡大されない限り、物価上昇率が2%になるような消費増はみこめない。

 結論に入ろう。財政政策が現状の緊縮路線をとる限り十年単位で金利は上がらない。もし財政拡張政策に転じられた場合には労働市場に資金が流れ賃金も上がり、結果として物価も上がることになるだろう。しかしあくまでも財政の拡張が原因なので、金融を大胆に引き締めないといけないほどの物価上昇に進むことは難しく、結局、物価上昇率を超える金利にはなりにくい。結果として住宅購入者が払える範囲内での変動金利になる。だから現時点では安心料として固定金利を選ぶ人でなければ住宅ローンは変動金利を選ぶ方がベターだと考える。