第23回「個人消費を増やす方法」若年層への住宅手当創設を

住宅産業新聞 連載「住宅産業が日本経済を救う」

2017年(平成29年)5月25日(木曜日)号

第23回「個人消費を増やす方法」 若年層への住宅手当創設を

 

【若年層への住宅手当】

 前号の感想をいただいた。個人消費が増えると景気が良くなるとして、次にどうやったら個人消費を増やすことができるのだろうかという質問をいただいた。前向きの質問をいただいて、とても嬉しかった。そこで今号からはどうすれば個人消費が増えるのか、具体的な政策を示していきたい。

 日本経済の6割は個人消費が占めている。個人消費を増やせば、お金の流れ方はプラスに変わる。また、個人消費が伸びていけば設備投資も増えていくので、個人消費の伸びは経済全体を引っ張る。

 そこで、第一に最大の政策として実行すべきは、若年層への住宅手当である。18歳から30歳までの若年層に、例えば月2万円、年24万円を給付する。人口統計によれば、対象になるのは1500万人、必要予算額は3.6兆円になる。財源不足を心配する人もいるかもしれない。

 しかし、その心配は全くない。

 前回述べたように、黒田東彦日銀総裁が2013年に就任して4年間の間に、黒田総裁は日本銀行が発行しているお金の総量「マネタリーベース」を134兆円から436兆円へと302兆円も増やした。4年間で3.25倍である。しかし、日銀が笛を吹いても銀行は踊らなかった。収益率が高くない企業には銀行はそもそも貸せないのである。

 その結果、銀行貸し出しは思ったようには増えず、民間に流通するお金の総量「マネーストック(M3)」は1141兆円から1286兆円へと145兆円しか増えていない。日銀がマネタリーベースを増やした量の48%にすぎない。

 もっとも、見方を変えれば、この4年で年間平均36.5兆円、年率平均3%以上も民間へのマネーの供給が増えたとも言えるが、このかなりの部分は新規国債の発行とそれに伴う国家財政の支出増によりもたらされている。また、この程度しか増えないのであれば増えた分のマネーは投資家や企業の内部留保に吸い上げられるだけで、一般国民にまでは届かない。その結果、一般国民の消費は増えず、物価上昇率は2%どころか1%も上昇していない。

 この点、一般国民の消費を増やすためには、投資家や企業の内部留保に吸い上げられているお金を徴税によって取り戻し、一般国民に再分配すべきという主張がある。私はその論を否定するものではないが、経済的に力を持っている富裕層や大手企業を狙い撃ちするわけなので、実際には大きな抵抗が予想される。経済へのマイナスの影響が強いと彼らは反論し、マスコミも動かすだろう。実現するには相当の大きな支持が一般国民からなければ難しい。

 それならば、もう一つの方法を考えてみよう。再分配は、吸い上げられている構造について一般国民が十分に理解をしてからでも遅くはない。

 もう一つの方法とは、マネーの供給面に目を向ける方法である。経済規模に対してマネーが十分には増えていない日本経済では、現状、マネーが年率3%増えても物価上昇率は0%を少し上回る程度である。この物価上昇率を1%~2%に上げるためには、毎年増えるマネーの量を倍増させなければならない。つまり、貸し出しが思ったように増えない現状では、マネーの供給を増やす方法は、財政を拡張させて国債をより多く発行するしか方法がない。

 現状の倍のマネーを供給するためには、近年の国債発行量に加えて年間平均36.5兆円の国債を追加して発行しなくてはならないという仮説になる。もっとも、実際には、国債を現状よりも多く発行して経済対策をすれば、景気が良くなり、設備投資の需要も増え、銀行の貸し出しが増えるだろう。その分を仮に半分と見積もっても、年間18兆円程度は今までよりも多く国債を発行しても問題がない。インフレが起きれば、金融政策によりマネーを回収するとともに、その時点で財政を緊縮させれば良いだけである。

 そのため、若年層への住宅手当のためにわずか3.6兆円の国債を追加して発行してもデフレ脱却にプラスになることはあっても、経済や子どもたちの将来にマイナスに作用することはない。

【若年層住宅手当の効果】

 もし、2万円の住宅手当が実現できればどうなるだろうか。

 対象は、全ての若年層だ。社会人でも学生でも、どんな職業に就いていても区別されずに給付される。特に重要なのは、定職に就いていない若年層にも給付を行うという点である。人口統計を見れば、今の43歳、202万人をピークにして親になりうる世代の人口は減り続ける。いま29歳は135万人、18歳は123万人である。これから、この年齢層が結婚して子どもを持つ世代になる。

 日本社会の一番の弱点は人口減だ。それも、これから親になる年齢層の人口が減っていく我が国においては、この年代層に経済的な理由によって恋愛もできない、結婚もできないという状況を打破しなければならない。そのための経済政策が必要だ。

 ローコスト住宅を作っている工務店の社長から、低所得のために住宅ローンが組めない、いわゆるローンアウトのカップルがかわいそうだというお話を伺った。けっきょく、このようなカップルは低品質の賃貸住宅に住まざるを得ず、社会の格差はどんどん開いていくと憤っておられた。

 2万円の住宅手当はカップル二人で4万円になる。前回までの連載で述べたように住宅ローンの金利はこれからも上がらない。昔に比べて、いま生産される住宅は、耐震においても断熱においても非常に性能が上がっている。4万円のかさ上げで、いまローンアウトで賃貸にしか住めない20代のカップルが、住宅ローンを組んで家を建て、快適なすまいに住めるようになる。そうなれば、結婚する若者も増え、子どもも増えていく。子どもは一番消費をする年齢層なので、経済はプラスに向かう。

 いまローンアウトで困っているようなカップルに住宅ローンを組ませることは倫理的に問題だと指摘する声はあるかもしれない。しかし、問題は中古住宅の流通のしくみを変えることで解決できる。いま作られる住宅は、住宅履歴やインスペクションや瑕疵保険など、少し工夫をすれば中古として流通する経済的価値が非常に高くなる。賃貸でも売買でも、高い経済的価値を維持できるようになる。

 いまの賃貸住宅市場で注目すべきは、一戸建ての高性能賃貸住宅が不足している点である。家族が増えた時にもう少し広い家に住みたいと思うようになって、一戸建ての賃貸を求めようとしても全く足りていない。必要な需要に供給が追いついていない現状だ。あっても、築30年といったような古くて住みにくいものばかりである。

 カップルで月4万円の住宅手当があれば、一番大変なローン初期の支払いを乗り越えることができる。だから、そもそも住宅ローンが払えないという状況そのものが起こりにくい。たとえ住宅ローンが払えないという状況が起こったとしても、問題は起こらない。築浅の一戸建て住宅は賃貸物件としても人気の物件になるので、確実な利回りが期待でき投資家からのニーズは高くなる。つまり、若いカップルが住宅ローンの支払いをできなくなって建てた家を手放すことになっても、残ローンは少ない、むしろ、多少なりともお金が戻ってくるという状況になる。

 20代が良質な家に住むようになると、全世代に対して良い影響が伝わって行く。まず住宅関係の産業には需要が増え、全世代、全業種で仕事が増えるという好循環が生まれる。特に、職人の高齢化が問題になっている住宅産業にとっては、賃金・工賃が確保できる状況になる。もっとも職人の育成については特別の対策が必要ではあるが、工賃が下がらない、むしろ上がっていくという現象が生まれてくるため、職人をめざす人たちも増やしていける。

 戸建ての家に住めるようになれば、子どもたちの学習環境も良くなる。21世紀の国家は人材を育成して世界と対峙していかなくてはならない。いかにして人材の底上げと高度人材の育成を実現するのかに尽きる。住宅手当はこの点でも国益にかなう。

 このように、住宅手当の支給は日本の経済問題を全ての分野で大きく改善する方法になる。次回以降は、個人消費を増やして行くその他の方法について述べることにしよう。