日系人の切り捨て

(2008/12/31記)


雇用情勢が急激に悪化する中で、一番弱い立場にいる日系人移住労働者の雇用が切り捨てられています。中には、17年間その職場で働いてきた人が、いきなり切られている。

おかしくないですか?


日系人移住労働者

ご存じの通り、日本人が移民をした先の国では、日本人移住者の方々は非常に苦労をされて現地のコミュニティを作ってこられました。豊かになった日本が、日本人移住者の子孫である日系人を受け入れるという政策転換を行ないました。

平成2年(1990年)6月1日の出入国管理法(入管法)の改正です。
「定住者」の要件として、日系移民の2世・3世が加えられました。
(定住者には、就労などについて制限はありません。)


その結果、この18年間で日系人は増え、日系ブラジル人では31万7000人の人がいらっしゃいます。(外国人登録者数は、2007年末で215万人)
http://www.moj.go.jp/PRESS/080601-1.pdf


ただ、18年前のこの改正の本当の目的は、「労働力不足の解消」でした。つまり、バブル経済下で不足してきた「労働力」というモノを輸入する政策転換であったということです。

いま問題になっている「派遣切り」は、この時に日系人移民労働者に対して作られた「搾取構造」が、2004年の派遣法改正によって若者に広げられたということが、私も今になって分かってきました。

現在、経済界を中心に「日本経済のためにも、日本は移民制度を考える必要がある」という主張が語られています。しかし、その主張には、「移民は単なる労働力というモノではなく人間だ」という視点が欠けています。

移民も人間。恋愛もすれば病気にもなる。日本人と一緒に日本社会で生活するのだから、当然、日本人とも人間関係ができる。

もし、経済界が、本気で日本社会が移民政策をとろうとするのであれば、当然、それにまつわる様々な問題についても、解決策を用意しなくてはなりません。


平成2年の入管法改正が、外国人の受け入れについて日系人に限ったことの趣旨は、日系人ならば移民にまつわる様々な問題について、解決がされやすいと考えられたことだと理解できます。

ただ、この18年間、そこに目を向けて来なかった。もし、経済界も、政治も、そこに目を向けて来られたのであれば、日系人移住労働者にまつわる問題は、現時点で全て解決できているはずです。

このまま、移民政策を拡大するのであれば、移民にまつわる様々な問題について、何も準備をしないまま門戸を拡大するということになりかねません。その先にあるのは、異質なものが突然入ってくることによって起きる日本社会の混乱です。

後述しますが、今の若者の働く環境とも非常に密接に関係します。


逆に言えば、私たち日本人は、この日系人移住労働者問題を通じて、若者と労働、若者と負担、若者と将来というような、21世紀の日本社会の有り様を考えるチャンスを与えられているとも言えるでしょう。


◇ 関西での状況

ただ、このように書いている私自身も、日系人のおかれている雇用状況については、今まで自分の取り組む課題として位置づけていませんでした。

12月19日と12月24日に行なわれた民主党本部の会議で、日系人特有の労働問題があるという事実を示されたとき、「自分は「日本人が海外に移住するときにどういう扱いをされたのか」という問題の象徴としてドミニカ移住者問題に取り組んできたのに、それと裏表の関係にある日系人の受け入れについてはしっかり取り組んでこなかったな」と反省をしました。

日本に来る外国人については、最大の問題は在留資格です。衆議院議員の頃から、在留資格が論点になっていた、難民問題や親が不法入国をして日本にやってきた子どもの教育問題には取り組んできました。しかし、在留資格をすでに得ている日系人については「まだマシだろう」と、それ以上、問題の根深さに目を向けられていませんでした。


日系人が多いところは、自動車や電機関係の工場が多い愛知・静岡・長野。

そこで、関西ではどこが多いのだろうと思いました。

関西国際交流団体協議会の有田典代(ありた・みちよ)事務局長に尋ね、調べていただいたところ、どうやら滋賀が一番多い様子でした。


そこで、2008年12月29日、初めての「炊き出し」が関西で行なわれることになるということで、滋賀県近江八幡市に行って参りました。

有田事務局長から紹介していただいたのは、甲南女子大学准教授の「リリアン・テルミ・ハタノ」さんでした(日系2世の方です)。リリアン先生とは京都駅で合流し、近江八幡までの電車の中で、日系ブラジル人についての問題について教えていただきました。


◇ 全体像が把握できない日系人問題

主催者は「近江八幡多文化共生市民ネットワーク」でした。時間は、10時から13時の予定でしたが、私が残っていた15時くらいまでも、まだ引き続いて行なわれていました。

ただ、来ていただいた家族は5家族と、私の印象では「少し少ないのかな」と思いました。しかし、この少なさにも、大きな構造的な問題が隠れていました。


朝の時点でも、主催者の方は、「今日の生活支援サービスに来てくださる方は少ないと思います。緊急で行ったということもありますが。」とおっしゃっていました。

支援物資はある程度用意していても、「本当にそれらのものが必要とされるのか、日系人のニーズについても現状把握からはじめないといけないのです」いうことでした。


私が理解した「構造的な問題」とは、

1.日系人の横のネットワークが確立していない。その結果、生活支援サービスが行なわれるという情報自体が行き渡らない。

2.ブラジル人を妻に持つ方にうかがったところ、「お恵み」で施されることに対して、ブラジル人は抵抗感を持つということ。

という2点でした。


特に、一点目のネットワークが確立していない点が非常に問題です。
行政も、支援団体も、当の日系人も、全体像を把握できていません。


当事者の日系ブラジル人の方に理由をうかがって分かりました。その理由は、本来国がやるべき「定住者」の就労支援について国が行なわず、ブラジルからの移民の時点から「派遣会社」に任せきりになっている構造でした。

つまり、労働者の搾取が行なわれても、派遣会社はそれを隠す。
通訳にしても、労働者に対して不都合なことは翻訳されない。


日本語教育の支援についても、国が責任を持って行なうべきにもかかわらず全く行なわれていません。その結果、十何年日本で働いているのだけど、ほとんど日本語を話せない人もいるようです。

また、子どもについては、ひどい「いじめ」があり、公立学校に行けない。アメリカなどは多文化共生の考え方があり、公立の学校で2ヶ国語(英語とラテン系の言語)での教育がなされていて、ブラジル人学校というものもあまり必要でないそうです。

日本が外国人を「定住者」として受け入れるのであれば、その条件整備として子どもの教育環境を整備することが必要にもかかわらず、きちんとなされていない。

外国人は有権者でないので、政治を通じて是正されることもない。支援者も、全くのボランティアなので、支援体制も十分にはならない。

そのようにして、放置されてきたのが、外国人労働者の問題だったわけです。


◇ 若者よ、怒れ

私は、12月10日に参議院予算委員会で麻生総理に質問しました。

今のお年寄りは、現役世代3人でお年寄り1人を支える人口構成になっている。しかし、2055年、今の30代以下が年寄りになるときには、現役1.2人でお年寄り1人を支える人口構成になります。

残念ながら、麻生総理にはその認識がありませんでした。


今の若い世代は、自分たちが上の世代を支えても、自分の老後の時には自分たちの世代内で支え合わなくては、社会自体が方法解する、社会が持たないようになります。

そのような世代が、「派遣切り」でいきなり職を失ってしまう。

登録型の派遣について、長期間に及ぶものは禁止をしなくては、派遣先企業から派遣を切られた瞬間に、派遣元の責任なく切られてしまう。その結果、家を追い出されてしまう。


若者よ、怒れ。
私は、自分のこととして、同世代以下の人たちに強く申し上げたい。

私も、これは自業自得ですが、20代のときに何年も司法試験の受験生をしていて収入がなく、「自分がいてもいなくても社会にとって同じだな」と思ったときがあります。

仕事がないということが、人間にとってその尊厳をどのように奪うのか、どの世代よりも一番体験させられているのが、30代以下の世代です。


そして、若年労働者の「使い捨て」がさらに可能になるように、「労働力」というモノとして、外国人が移民として入れられようとしている。

それも、「日本人」と「外国人」という分断の構造を温存し、日本人の若者が外国人を差別する構造を周到に作り上げて、日本人の若者の不満を政権側に向けさせないようにする。


今、民主党も派遣業法の改正案を作っていますが、登録型の派遣について問題は解決していません。

私に対しては他の議員から「一歩前進。また、現在の日本の産業構造では、工場に対する派遣は必要だ」と説得をされていますが、私は「それなら、若い世代が今の年寄りを支えて、かつ、自分たちの老後を守れるような代替案を示してください」と主張しています。

(11月6日の記事で民主党の対策について肯定的に紹介しましたが、この点については私は不満に感じています。)
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20081106


今日のブログの記事も、長くなってしまいました。
まとまらない内容ですみません。

もう、このあたりにしておきますが、8年前に衆議院議員として国政に送っていただいてから、ずっと「誰一人排除されない、全ての人が自分らしく生きていける社会」を私は主張してきました。

「「危機」は「危険」と共に「機会」でもある」と言われます。
金融危機と言われる今だからこそ、21世紀の新しいモデルを作りたい。

日本には、その力があるはずです。


皆さんの御意見をお待ちいたします。



参議院議員 中村てつじ
メルマガ「国会からの手紙」
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