講演資料「自治体だけができる空家対策」

(2010/07/25資料として掲載)


今年の5月5日にまちづくりNPOへの講演用資料として作ったPDFファイルがあります。ツイッターでも紹介したので資料的意味としてブログでも再掲します。(2010/07/25)
http://data.tezj.jp/2010-0505machizukuri_npo.pdf


<<<<<テキスト内容>>>>>


一.空家の現状


全国では、5 年間で97 万戸増え、756 万戸(平成20 年)(平成15 年:659 万戸)
空家率は13.1%で過去最高
(平成20 年住宅・土地統計調査:総住宅戸数5759 万戸・総世帯数4999 万世帯)
(平成15 年住宅・土地統計調査:総住宅戸数5389 万戸・総世帯数4686 万世帯)
(差が空家数になっていないのは、建築中や一時現在者の住宅が若干あるため。)


奈良県では?
平成15 年→ 平成20 年
総住宅戸数56 万2200 戸→ 59 万2600 戸
総世帯数48 万2600 世帯→ 50 万2500 世帯
空家7 万5700 戸→ 8 万6400 戸(1 万0700 戸増)
傾向的には、全国の約100 分の1 の規模でほぼ同様。


二.空家の問題


・治安の悪化(例:室外機の窃盗)
・環境の悪化(例:雑草)
・資産価値の下落
・「まち」自体の高齢化


三.なぜ空家のままなのか?


現象として:かつての「ニュータウン」のオールドタウン化← 少子高齢化

なぜ家主は空家のまま放置しておくのか?
家を貸す=(普通)借家では「正当事由」が無ければ返却されない。
(= 以前の「借地借家法」の問題点(日本の借家に対する伝統的な考え方))


解決のしくみ=「定期借家制度」(定期借地ではない)(パンフ参照)
2000 年に「借地借家法」が改正され、「定期借家制度」が創設されたが、認知度低い。
国会議員の中でも、制度を知らず、空家をそのまま放置している人がいる。)


なぜ中古住宅として流通しないのか?
・日本には、中古住宅市場がない(と言ってもいい状態)→後述
・「息子が帰ってくるかも」というような理由で、「処分はしたくない」人が多い。


四.定期借家制度を使った解決策


1.(自治体だけができる)定期借家制度の周知
唯一、地方自治体のみが持っている手段:固定資産税の納税通知書
そこに「定期借家制度というものがあり、希望する時に返してもらえるしくみがある」
というチラシを一枚入れるだけで、告知ができる。

チラシに、
(1)定期借家制度を扱っている不動産業者((後述の)JTI協力事業者も)
(2)必要なリフォームを行う工務店
を書くことにより、地元業者への支援になる。(産業政策)
(これらの業者を選ぶ際には、公募を行う等の工夫が必要。)

なぜできないか?
× 「国土交通省地方自治体」∵ 地方自治を所管する総務省の反対
× 地方自治体の首長「前例がありますか?」
→ 唯一、地方自治体の議員のみが、事態を打開できる。(首長へ議会で提案)
「空家の活用・住み替え支援をするメリット」を訴える。
・お年寄りの「第二の年金」
・若者世代が「オールドタウン」に入ってくる=「まち」の活性化
→「まち」の若返り=住民税の増大
→「まち」の活性化=資産価値の増大→固定資産税の増大


2.家主から見た「定期借家制度の問題点」

定期借家契約の場合、貸し手(家主)は契約期間にしばられる。
しかし、借り手はいつでも返せる。= 家主にとっては制約
(例)
「家賃の差額を自分の年金代わりにしたい」
「広い郊外の家を貸して、便利な小さい家に借り換えたい」
(問題)
自分が他のところに住み替えている間に貸している家を返してもらうと、空家賃の問
題が発生。
(解決策)
JTIは国から基金を得て、空家賃の部分のリスクを負担(パンフ参照)
国土交通省の外郭団体「移住・住みかえ支援機構」(JTI)が提供する「住みかえ
支援」=お年寄りの貸し主から借り、子育て世代に転貸するビジネスモデル
http://www.jt-i.jp/


3.ようやく県が始めたJTI活用の市町村支援

中村から国土交通省や県へ働きかけ→ 県がJTI活用へ動き始めた。
しかし、市町村職員・不動産業者対象の講習会についても、あまり周知されず。
= 肝心の不動産業者がほとんど参加せず。
→ 市町村自らがJTIの活用を自覚することで、不動産業者が制度を知り、利用するように変わる。(現状は、JTIの協力事業者は、ほとんど居ない。)


五.問題の背景(住宅産業全体から見える問題):必要な不動産業の構造改革


サラリーマンの資産形成の中心は「住宅」
「住宅ローン」= サラリーマンが一生かかって払う「負債」
その「住宅」は「資産」か?→ 現状では、建物部分は20 年で評価がゼロに。
住宅投資額は、年間19 兆円→ 20 年後、年間19 兆円の国富が消えていることに。
= 資産デフレの構造的原因
「価値の落ちない住宅」ができれば、「消えた国富」が他の消費に。→ 内需拡大
(「成長戦略」のポイント)


従来の商習慣を見直される住宅販売業界
従来の住宅販売:新築中心
(背景)高度成長期、足りない住宅地
大規模の宅地開発→ 宅地と建物のセット販売(大量生産・大量消費)
(結果)建売住宅の場合:管理主体である工務店が不在のケース(*)
注文住宅の場合:大手のハウスメーカー→ 顧客の囲い込み
中小の工務店→ 管理主体である工務店不在のケース(*)
((*)の場合をどうする?=現在まで続いている問題点)


市況の変化
(1)経済のグローバル化「平準化する世界」→ 若年世代の収入減→ 住宅購買力の低下
= 新築を買いたくても買えない層の増加。新築中心の市場の維持は不可能。
(2)少子高齢化・「団塊ジュニア世代」の非婚化→ 世帯数は増から減へ
(3)増えてくる空家(前述)
→ 購買層の変化に対応した商品を住宅販売業界は提供できるか?


中古住宅市場の問題点(売買)

(1)隠れた瑕疵
原因:「管理主体」(家を中長期的に管理している工務店)の不在
→ 中古住宅は、安いが不安。(消費者心理)
→ 第三者性確保のための「ホームインスペクション」(住宅検査)
= インスペクションは、代替手段にすぎない。
(工務部門を持たない不動産会社には、インスペクションが必要(内部か外注か))
(中古住宅の流通について→ 参考:北海道R住宅http://hokkaido-r.jp/

(2)現状での「仲介」にこだわる不動産業者
工務に対する知識不足・従来の「濡れ手に粟」型商売のうまみ
→ 多くの不動産業者は、市況の変化(消費者の変化)に気づいていない
→ 変化に対応できる企業のみ生き残れる
(→ 大手ハウスメーカー・大手不動産会社は、リフォーム会社を協業化)


毎年のように行われる住宅政策の改訂
2006 年住生活基本法
2009 年瑕疵担保責任履行法施行、長期優良住宅普及促進法施行、改正省エネ法施行
数から質へ。立て替え重視からストック重視へ。((大量販売から)個別販売へ。)
国策としては「長期優良住宅」を一つの基準として、優良住宅をストック化→ 活用
中古住宅をいかに安心・安全に市場に流通させるか> 不動産業者のみ可能。
(小回りの利く中小の不動産業者にとっては最大のビジネスチャンス到来)
(生き残るか、淘汰されるか)


つなぐ中核は「不動産業者」
消費者(サラリーマン)←→ 不動産業者←→ <1>工務店・<2>金融機関
(<1>:5層構造(1)消費者(2)不動産業者(3)工務店(4)建材卸(5)建材メーカー)


不動産業者役割(1):金融機関へのプレゼン
<工務が分かる(目利きができる)不動産業者>となれば・・・
=「どれくらいリフォームすれば、どれくらい価値が上がるのか」実例を内部に蓄積


リフォームローン(物件価値に着目した、物的担保ローン)
ノン・リコースローン(担保価値があるので可能となる、不遡及型貸付)
→時価が分からない金融機関では無理。不動産業者からの提案があって初めて可能。

現状では、このようなプレゼンを行っている不動産業者は(ほとんど)無い(市場の空白)
金融庁も銀行監督において、住宅ローンの制度設計に無関心。



不動産業者役割(2):お年寄りの「資産所得」のお手伝い
リバースモーゲージ」の前提:上物を含めた中古住宅の市場価格が客観的に決まること
(土地価格のみでは損をするイメージがあり、持ち主はリバースモーゲージを利用しない)
貸しても返ってくる「定期借家制度」の普及促進
(ストックをフローに変える。収益還元価格での物件価値の把握も可能に。)
(前述「移住・住みかえ支援機構」(JTI)を利用すれば、家賃収入保証も行える。)

自治体に求められる産業政策:工務店の不動産業者化、不動産業者の工務店

「管理主体」=工務・不動産共に理解している企業であることが理想
(現時点の成功例(不動産業者の工務店化)の一つ:京都の「ゼロ・コーポレーション」:金城一守「200 年住める木造住宅のつくり方」(2008 年1 月ダイアモンド社))


「第三者性の確保」(1)(2)の活用(始まったばかりの分野)

(1) ホームインスペクション(住宅検査) (2) 住宅履歴情報

留意点(1):求められる「リフォーム履歴の可視化」
IT革命(ICT革命)で可能に。
デジタルカメラ、カラーレーザープリンター、CD−R → 記録作成の低廉化
設計図など、膨大な図書のデータも容易に保存。
ホームインスペクションでチェックされる箇所を工事の際に撮影→ 営業の際にプレゼン
「目で見て分かる」→ 安心して買える→ 資産価値が高まる
(ポイント)新築と比べて「お値打ち感」を演出する中古住宅の供給

留意点(2):環境問題・健康問題への対応(cf.鳩山イニシアティブ)
環境:最大のCO2 排出は住宅建築時。立て替えを抑制することで、CO2 削減。
健康:お年寄りの健康被害∵ ヒートショック
→ 断熱改修の必要性
(今年から始まった「住宅版エコポイント」)
(ポイント)健康・省エネの品質を差別化の材料へ

※驚くほど断熱の知識がない現場の工務店(長期優良住宅の温熱等級4が取れない状態)

(原因)
1.売れることに安住する断熱材メーカー
cf.硝子繊維協会の「マイスター」認定者、奈良は「該当者なし。」の状態が続いている。
(広報態勢について申し入れ後、約1 年経っても改善せず。)
2.断熱材の素材間で相互に叩き合う構造
乱立するオリジナル工法/横串を通さない行政や業界団体


(産業政策としてのポイント):他の工務店とどのように差別化するか

1. 各断熱材の特性について情報収集
各断熱材について、メリット・デメリットを把握し工務店に伝える。
→ 初めて家主が選択可能に。

2.オープン工法の互助組織(NPO)への入会
新住協(新木造住宅技術研究協議会)のような、各断熱材に中立的に高気密・高断熱の住宅を
作ることをポリシーとしているNPOの利用を推奨する。
(cf.新住協:650 社の加盟。オープン工法。室蘭工大の鎌田紀彦研究室が技術指導)
http://www.shinjukyo.gr.jp



(時間があれば)
六.中古マンションの流通(集合住宅特有の問題)
マンションの「終の棲家」化
住宅性能の3要素:「躯体」「断熱」「内装(設備含む)」
従来は、「内装」のみに着目した、マンションリフォーム(リノベーション)後、販売。
これからは、「躯体」「断熱」性能に着目した商品性が重要

例)管理組合へのコンサルテーション
1.区分所有者の資産運用のサポート(転売・賃貸)
2.管理会社の選別(不動産業者と管理会社との提携)
3.大規模改修を見通した資金管理(修繕積立金の管理)
4.大規模改修を効率化する手法(外断熱改修など)


七.「長期優良住宅」のその先へ
「Q1住宅」(新住協)
「パッシブハウス」
(「世界基準の「いい家」を建てる」森みわ(2009 年7 月PHP研究所))