金利上昇「独国→米国→日本」のメカニズム


6月11日のブログ「財政健全化と個人向け国債」で以下の用に書きました。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20100611

現在、各国の長期金利を比べると、ギリシア→スペイン→フランスの順に上がっています。これが、ドイツ・アメリカ・日本に及ぶ可能性もあります。その時、ドイツ→アメリカ→日本の順に上がって行った場合、日本は1ドル=70円超円高の状態から、一気に1ドル=120円円安+長期金利の上昇ということに投機的資金から攻撃を受ける可能性も出てきます。
このような急激な為替の変化は、日本の経済に非常に大きな悪影響を与えます。


この部分と関連して、前田拓生さん(ファイナンシャル・フィールド・リサーチ代表/早稲田大学 理工学研究所 客員研究員/エコノミスト/大学教員/地域金融制度&非営利事業等の研究者)からツイッターでより詳細な解説を頂いたものを転載します。

以下、文意を損なわないように読みやすいように編集してあります。

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中村てつじ ご説明頂いた「財政危機からの金利上昇で独国→米国→日本ときた時には、先進国通貨のリスクプレミアムによって酷い通貨安になる」という部分、私も感覚的には理解できるのですが、フォロワーの為にも詳述して頂けませんか。


前田拓生 まず、ギリシャの財政危機によってユーロに対してリスクプレミアムが付き、対ドル、対円で下落をしました。


このユーロ安は現在少し落ち着いてはいますが、まだユーロ圏内の国で問題も残っているし、銀行のストレステストの結果によってはさらに下落する可能性があります。通貨が下落するような国の国債は他国で保有したくないことから売られ、利回り上昇につながります。


したがって独国の利回りも上昇する可能性があると同時にユーロ安になるわけです。米国も超金融緩和策を続けているので、ユーロほどではないにしてもドルに対する信認は低下していますし、今後、以前のような「強いドル政策」を取ることはないと思われます。


しかも巨額の対外負債残高があるので、常に、減価リスク、と同時に、米国債保有国(中国など)が本当に売却すれば、金利上昇懸念も存在することになります。現状、中国が売却をするということではありませんが、市場ではそのリスクを考慮することになります。


以上のように独国も米国も金利上昇懸念と通貨安が同時に起こる可能性があります。同様に日本も政府債務残高が世界一ということに起因して金利上昇懸念と通貨安が考えられます。これはコラムの通り。この場合の通貨安はBRICsや資源国に対するものと考えています。
http://agora-web.jp/archives/1016217.html


中村てつじ ありがとうございます。「独国→米国→日本」の順に起こるという部分については、どのように考えれば良いでしょうか。


前田拓生 ユーロは将に現時点の問題ですし、銀行のストレステストの結果によっては「今すぐ」にでも大きな問題になりかねません。したがって「独国が①」でしょうね。


とはいえ、米国のドルのバラマキは今に始まったことではなく、対外負債の問題も重大ですから、ドルの減価リスクは常にあります。ということで「米国が②」と思われます。


他方、日本は確かに政府債務残高が世界一ですが、世界では増税余地が十分にあると思っていますし、日本の家計の貯蓄動向がすぐに変化するとは考えられません。


しかも、他国に比べて日銀がしっかりと通貨管理を行っている上に、銀行は(情けないことに)貸出が少ないので不良債権問題もない。以上から、今すぐに急激な金利上昇(国債の大量な売り)や通貨安の可能性も少ないと思います。したがって「日本は③」でしょうね。


ここで「日銀がしっかりと通貨管理を行っている」は政府等からの無茶な量的緩和要求にも屈せず、とはいえ、いろいろと出来る範囲の金融政策を模索しているという意味です。量的緩和のようなおかしな政策に走れば、通貨の信頼性は失われる可能性が高い事になります。


中村てつじ ありがとうございました。

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私(中村)も「日本にとって通貨安はデフレ対策としても有効である」という立場があることは理解できます。しかし問題はそれが「酷い通貨安になる」(前田氏)になる可能性があるということです。さらに言えば、先のブログで指摘したように投機筋の思惑により左右されることになりかねません。


金融緩和は一見分かりやすく、効果的だと思われがちです。しかし、再述しますが金融緩和による資金供給が中小企業融資に使われなければ、金融バブルのための資金に流れていきます。


その結果、例えば「結果的に株式や社債が異常に買われ、新たなバブルが加速するだけでなく、実体経済の低迷のなかで、大銀行だけが高収益と高額ボーナスを享受することになる」中前忠 2010年4月21日「十字路」http://bit.ly/acLNfD)ということが起こってきます。


一見分かりやすい理屈こそ、疑ってかからなければなりません。あなたが「さらなる金融緩和」を支持することで、金融利権派を喜ばせることになりかねないということを「みんな」で共有いたしましょう。