財政再建で必要な増税は「消費税」が適切なのか


今朝は、新大宮駅で街頭演説をいたしました。その中で「消費税よりも所得税だろ。166万人も5000万円以上の年収の人がいるはずだ。その人たちに課税するべきではないのか」という御意見をいただきました。「おっしゃる通りです」と申し上げましたが、「それをきちんと文字に残して欲しい」とおっしゃったので、あらためてその点について書かせていただきます。


ロバートライシュの「余震(アフターショック)で指摘されている通り、今世界で起こっている問題は、アメリカでも中国でも、労働者が自分たちが作っているものを自分たちの給料で買えないという問題です。

余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる

余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる

つまり、所得の配分が実際の消費に回す人よりも、投資に厚くお金を使う人に多くなされていることから、世界的に投資過剰になっているということです。

投資が過剰になれば、供給過剰になり、デフレになっていきます。世界的なデフレ現象の原因は、このような投資過剰にあります。世界的に有名な投資家は消費を慎んでいることを美徳としていますが、それは間違っています。NPOなどを設立してお金を使うことも含めて、最終的な消費につながるお金の使い方をしなければ、文明の進歩を一般労働者が享受できない状況が固定されてしまいます。


そこで、冒頭のテーマである「財政再建で必要な増税は「消費税」が適切なのか」という命題に行き着きます。今日発売のAERA(70頁)で「ぐっちーさん」が同様の指摘もされています。

先週の民主党「簡素な給付措置及び給付付き税額控除WT」第3回会議(4月13日)で提出された資料でも見られる通り、日本は他の先進国と比べて消費税率が低いだけでなく、所得税率も累進度が低くなっています。
http://firestorage.jp/download/65298955f973fa9cf44031579ee8482d491b1a3c


世界経済の状況を分析して、高所得者の投資から中低所得者への消費に世界のカネの流れをシフトしようとさせるのであれば、消費を促進させるマクロ政策を取る必要があります。

つまり、今取るべきなのは、消費税の増税ではなく、所得税の累進度を高めることではないかということに行き着きます。


もっとも、今回の「社会保障と税の一体改革」でも、所得税の累進度を高める政策が取られています。しかし、それは4000万円以上の所得について、所得税率を40%から5%上げるということに留まっています。この所得税の税率引き上げに伴う税収増は、400億円に留まります。

また、配当に対する源泉分離課税も問題です。高額所得者になればなるほど、分離課税(本則税率20%)となれば、株からの配当は総合課税では45%かかるところ、20%でいいことになります。この点についても、「大綱」では方針が示されていますが、国民的な関心が低いために世論からの後押しが十分ではありません。


今日も14時からWTの第4回会議が開かれます。私は、以下のような内容の意見書をWT事務局長の尾立源幸参議院議員に提出しています。少しでも国民の理解が得られるような内容にしたいとは思うのですが・・・。
http://firestorage.jp/download/6bad2bbc2ee19cd55bd426b7aaec42f636cd5259

引き続き取り組みを続けて参ります。

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(意見書本文)
簡素な給付措置・給付付き税額控除に対する意見


1.国会審議までに詰めるべきは「充実した内容」

国会審議までに政府与党として、「簡素な給付措置」を充実したものにまで内容を詰めるべきである。復興増税の際、与野党協議で大幅な修正を迫られたのは、与党との協議の中で与党議員から指摘されていたにもかかわらず、政府がその指摘を認めなかったことに原因がある。結局、野党の要求により大幅な修正になったことで、政府与党の政策立案能力に疑問が持たれ、かつ、与党内にも不満が残る結果となった。

その時の轍を踏まないためにも、国民に負担感が強い内容(チープな給付措置)ではなく、あらかじめ「充実した内容」のものを政府与党で準備しておく必要がある。「どうせ与野党協議で変更を迫られるのだからあらかじめ内容を詰めておかない方がよい」という意見もあるが、それでは「野党の意見により内容が決まる」という意味では、復興増税の時と同じ様な厳しい評価になりかねない。反面、与野党協議の結果で「充実した内容」を引き下げることになっても、与党の評価を下げることにはならない。


2.「財源」について

給付つき税額控除や簡素な給付措置は、消費税が持つ逆進性に対応するものであるため、その財源は、本来、消費税の増税分からまかなうべきものである。しかし、3月の社保税合同会議で長妻政調副会長(一体改革調査会事務局長)が発言され、3.8兆円の枠外(つまり、増税分の枠外)から財源を求めるという方針が合同会議役員会から示された。

背景には「チープな給付措置にとどめたい」という政府の意向があるのかもしれない。しかし、逆進性対策という措置の目的を達成する対策のためには、相応の規模のものにする必要がある。今回の消費税率引き上げのうち4%分は社会保障の安定化(=財政の健全化)に充てられ財政に余裕が生まれることから、当面は赤字国債を財源とすべきである。


3.「対象者の範囲」に対して「住民税世帯非課税」を基準にすることについて

給付付き税額控除の対象を一定の年収以下に限るという暗黙の合意があるかのような前提の下、政府の説明では「住民税世帯非課税」を基準にして対象者を絞ることが既定方針かのように扱われていると感じられる(中村の個人的感想)。しかし、これでは、20代・30代の若者世代の単身世帯では、都市部で100万円、地方部で93万円の年収があれば、対象から除外されてしまう。(第3回WT「参考資料」20頁参照。ちなみに当該箇所には「社会保障における社会保障の多くの施策において、「低所得世帯」の基準は「住民税世帯非課税」とされている」という記述がある。)
http://firestorage.jp/download/5b69d934a2998e17a44a63c09306098167c0082a

それでは、いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる人たちがおおむね年収200万円台(年収300万円以下)だということをあわせて考えると、年収100万円〜300万円の層がすっぽりと対象者から抜けてしまうことになる。(20代・30代の若年層に対しては「社会保障改革における機能強化策」の給付増も見えにくい。)これでは、若者世代のための消費税増税と言いながら、全く逆の効果を生んでしまうことになる。

また、「住民税世帯非課税」を基準とすることは、地方公共団体(自治体)の事務量を増やすという意味でも不適切である(「執行面での対応可能性」の論点参照。給付付き税額控除が所得税を対象とする制度である以上、簡素な給付措置は国税庁が担当する事務とすべきである。)


4.「執行面での対応可能性」を考慮した給付方法について

簡素な給付措置は、将来の給付付き税額控除とシームレスなものにすべきということはWTの議論でも、ほぼ共通認識になっている。そうすると、給付付き税額控除が所得税に対する措置であるゆえ、簡素な給付措置も所得税の徴収面(執行面)で給付を行うことが妥当である。

具体的には、所得税源泉徴収票を活用する。サラリーマンの場合、年末調整を行い、還付の分などは給与の支給の際に調整されて給与が支払われる。同様に、簡素な給付措置も、年末調整の際に確定した所得額に応じ一定の税額控除の額を定めて課税額から控除する。控除額が課税額を上回る場合には、その差額が生じている旨の表示(つまり、マイナス表示)を行う(=税務署からの給付が必要になるケース)。給付の申請は、上記の源泉徴収票を税務署に郵送し、税務署は申請者が指定する口座に振り込むことで給付を行う。
このことにより、地方自治体が関与することにより生じる事務コスト増を防げ、また、従来の所得税の徴税システムを利用することにより給付コストを下げることができる。


5.「対象者の範囲」と「給付額の水準」について

逆進性対策という目的からすれば、基本的な消費額(A)が重要になる。生活保護の最低生活費(生活扶助費)、全国消費実態調査などから年代別かつ世帯人数ごとに、20代単身ならA1(20)、30代単身ならA1(30)、・・・2人世帯ならA2、3人世帯ならA3、・・・という決め方をする。分け方の刻みを考える際、重要な要素は、社会保障の給付が薄い若年層に対しては厚い「簡素な給付措置」「給付付き税額控除」を与えるべき、という視点。

そして、単身世帯を例に取ると、例えば課税所得額300万円まではA1×税率引き上げ分(=B1)を全額還付(給付)し、そこから所得額が上がるにつれて還付額(給付額)を下げていき、例えば所得額600万円になれば還付額(給付額)をゼロにするというしくみにする。ここでの300万円や600万円という数字については、世帯人数ごとに変える方法(例えば20代30代単身なら300万〜600万、夫婦二人なら400万〜700万・・・等)も考えられる。

以上

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