「高齢化が進むと国債が暴落する」は本当か?


「高齢化が進むと国債を売って得たお金で消費に回るので国債が暴落する」という御意見をいただきます。消費が拡大すれば経済成長の範囲で緩やかに金利が上がるのは当たり前のことです。それを暴落とは言いません。

現実は、将来不安などから高齢者の消費は進まず、亡くなる時に一番資産があるという傾向が出てしまっているのが、悲しいところです。

ただ、仮に御意見のような仮定を置いた場合に、どのようになるのかという論理的な検証も必要だという気持ちも理解できます。今回の記事では、その点を検証いたしましょう。

問題になるは、急激な金利の上昇があり得るのかという点です。


私がフローでは経常収支の黒字、ストックでは対外資産負債の黒字(対外純資産)に注目しているのは、このような国は、論理的に取り立てに遇わないからという理由です。

カネを貸している方が、カネを借りている方から取り立てにあうということはありえないですから。

日本がギリシャと違うのは、ギリシャは対外純負債国で日本は21年連続世界一の対外純資産国(債権国)であるということです。また、国債の発行についても、日本は自国に通貨発行権のある自国通貨建てで発行することができますが、ギリシャは自国に通貨発行権がないユーロ建てで国債を発行することになります。ギリシャは償還時に自国の通貨を発行して償還することができないですが、日本はできます(当面、その必要性がでてくる可能性もみえないぐらいですが)。


御意見に戻りますと「国内預金や債権が換金されて消費に回ったら国債金利は上昇」という御指摘もいただきましたが、これは経済成長の範囲内の金利上昇に留まります。

通貨とは、取引の決済手段です。
通貨=預金+現金
と定義されます。


国内預金が引き出されて現金化しても、預金が引き出された現金だけ減るだけですので、通貨の量は変わりません。ただ、消費に回って、企業が現金を銀行に預ければ、口座に預金として入ります。もし企業がその預金を担保にして借り入れをすれば、更に預金を積みますことができますので資金の供給が増えます(これを信用創造と言います。)

このような循環が起きてくれば、企業が借り入れする需要が増えるので、それに応じて金利が上がるというメカニズムになるわけです。


ただ、今の日本の問題は、新規事業に投資をするという元気な企業は手持の資金(預金)を使って投資すれば足り、新たな融資を受ける必要がないという状況になっているということです。

一方、融資を受けたい企業というのは、収益力に問題があって、銀行としては貸したくても貸せない、結果、信用創造がなされず、市中への資金供給量が増えないという現象が起こっているわけです。


私が「「日本が財政破綻する」は本当か?」のレジュメで書いているのも、そのメカニズムの説明です。手書きで図を書いていますので、レジュメを御覧になっていただければ幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20120621


これに関連して「日銀の金融緩和が不十分なのではないか」という御質問もいただきます。ただ私としては、日銀の金融緩和はかなり目一杯やっていて、問題はその資金が銀行から出てきていないことにあると考えています。

銀行から市中に資金が出てくるためには、(1)融資(2)国債の購入(3)金融市場に流出の3つしかありません。(1)の融資が進まないのは前述の通りです。(2)国債が十分に発行されないと、結局(3)金融市場に資金が流れ、マネーゲームに使われているというのは、レジュメで説明をしている通りです。


このレジュメを出して以降も、このロジックに対して正面から反論をいただくことはありません。ぜひ、問題点を御指摘いただき、更に深い議論ができることを期待しています。