4:2つの通貨

(2013/09/06「中村てつじメールニュース」バックナンバー)

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前号に引き続いて「通貨のひみつ」シリーズ、その4です。

前号までで、民間が使えるお金を増やす方法には2つの方法があること、そのうちオーソドックスな方法は「融資」だということ、今のような不況では「融資」には限界があるということを説明いたしました

これから、もう一つの信用創造の方法である「国債の発行+政府支出」の説明に入ります。ただ、この方法の説明に入る前に、今号では基本の知識として、「円には2種類ある」という説明をさせていただきます。

「おいおい、円は1種類だろ。何をわけの分からないこと言ってんだ」と思われるかもしれません。

しかし、今まで説明して参りましたように、日銀から銀行に提供されているお金と、銀行から私たち民間人や民間企業に提供されているお金は、性質が違うと分かっていただけるのではないでしょうか。

そこで、標準的な金融論やマクロ経済学では両者を分けて呼んでいます。

1.日銀から銀行に提供されているお金=「マネタリーベース」

2.銀行から民間に提供されているお金=「マネーストック

です。


1.日銀から銀行に提供されているお金=「マネタリーベース」

日銀から銀行に提供されているお金は、「マネタリーベース」と呼ばれています。別名は「ベースマネー」「ハイパワードマネー」です。

日銀によると2013年7月時点で、170兆3890億円です。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/base1307.pdf

内訳は、
紙幣:83兆4873億円
硬貨: 4兆5498億円
日銀当預:82兆3519億円

です。おさらいになりますが「日銀当預」(にちぎんとうよ)とは「日本銀行当座預金」の略称です。私たちが銀行に口座を持っているように、一般の銀行も日本銀行に口座を持っています。この口座のことを「日銀当預」と言います。

銀行は他の銀行との資金のやり取りを日銀当預口座を使って行います。


2.銀行から民間に提供されているお金=「マネーストック

銀行から民間に提供されているお金は、「マネーストック」と呼ばれています。統計上の呼び名ですが、かつては「マネーサプライ」と呼ばれていました。

日銀によると2013年7月時点で、一般的なM2と呼ばれるもので850兆円です。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1307.pdf

マネーストックは、統計の取り方により一般的なM2のほか、M1、M3などがあります。詳しい解説は日本銀行のサイトにあります。
http://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exms.htm/


この両者の違いを意識すると、日銀の黒田東彦(くろだ・はるひこ)総裁がおっしゃっている「これまでとは次元の違う金融緩和」というものがどういう性質のものであるのか、という本質が見えてきます。

黒田総裁は、本年2013年4月4日に金融政策の「操作目標を「マネタリーベース」とする新しい金融調節方式を導入」すると方針を出されました。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1304a.pdf

マネタリーベースの内訳は、紙幣+硬貨+日銀当預です。紙幣と硬貨の流通量は民間需要によって決まるので、結局、日銀が金融政策で左右することのできるのは、日銀当預の額だけになります。

前号で説明をいたしましたように、日銀当預は、銀行同士の決済に使う当座預金にすぎません。いくらたくさんの当座預金が日銀当預口座に入っているからと言って、銀行は融資をして預金設定を増やすということにはなりません。

この点が、日銀が行う金融政策の限界です。


「それでは、黒田総裁はなぜ金融緩和ばかり言って、信用創造に対してもっとコメントしないのか」という疑問が湧いてくるでしょう。

そこで、押さえておかないといけないのは、黒田総裁は財務省出身の総裁だということです。民間への通貨供給に国債発行が必要だと分かっていても、そのことを言えないのではないでしょうか。組織的な事情がうかがえます。

黒田総裁は、就任直後から日本政府の財政再建を訴えています。この発言の裏にはどのような事情があるのかということを読まなくてはなりません。
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201304100825.html


次号は、いよいよ「通貨のひみつ」シリーズ最終回。信用創造のもう一つの方法である「国債の発行+政府支出」について、詳しい説明をいたします。

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