銀行振込のしくみ(「通貨のひみつ」補足説明第2回)

(2013/09/09「中村てつじメールニュース」バックナンバー)

                      • -

今朝、生駒駅で駅立ちをしていると、「てっちゃん、おはよう。ところで、送ってもらっているメールニュースで、いきなり金融の話が始まっているのはどうして?」という質問をいただきました。

「えっと、消費税増税の話がありますよね。消費税は上げなくても良いと言うときには、国債の話をしなくてはなりません。国債の話の前には金融の話をしなければなりません。だから、いま、順に金融→国債→消費税と話をしようとしているのです」と申し上げました。

「そっか〜。てっちゃんは自分の頭に入っているから伝わっていると思うのだけど、僕らから見たら、何度も繰り返して全体との関係を教えてもらわないと分からないんだよね。また質問するね」とおっしゃっていただきました。

説明不足を実感しました。また、そのつど、全体との関係を確認する必要性も感じました。そして、昨日の話す会にしても、今日の駅立ちにしても、つくづく支援者の皆さまに支えていただいていると感じました。ありがとうございます。


さて、今号は、メールニュース「通貨のひみつ」シリーズ補足説明第2回です。

御質問の2つ目は「「通貨のひみつ」第5回で、てつじさんは、政府が支出をしたら、銀行に振り込みがされて、預金が生まれるって説明されました。でも、5回までで銀行振込についての詳しい説明がありませんでした。銀行振込のしくみはどうなってるの?」というものでした。今号はこの御質問に対してお答えいたします。

銀行振込については、本来は「通貨のひみつ」第3回で詳しく説明するべき内容でした。
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130905

今回は、詳しく例を設定してあらためて説明いたします。この板書を併せてごらん下さい。
http://on.fb.me/15G1EXO


中村商店が佐藤商事に100万円の振り込みをするとします。中村商店はA銀行の自分の口座から佐藤商事のB銀行の口座に振り込みます。…(1)

そうすると中村商店のA銀行の口座からは100万円の預金が消えます。…(2)

また佐藤商事のB銀行の口座には100万円の預金が増えます。…(3)

今は預金振り込みが電子的なされますので(1)(2)(3)の動きは即時に
なされます。


しかし、預金というのは銀行にとっては債務=借金なので、そのまま放っておくと、A銀行は100万円の借金を減らし、B銀行は100万円の借金を増やすことになります。

そこで、B銀行とすれば「A銀行さん、きちんと100万円を払って下さいよ」という話になります。


そこで登場するのが「通貨のひみつ」第3回で説明いたしました、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)、コンピューターシステムとしては「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)です。

銀行振り込みの一日の情報は、全銀システムに集約されます。毎日15時までのデータが集計され、そのデータが日銀に送られ、毎日16時15分に決済がなされます。

例えば、中村商店のA銀行口座から佐藤商事のB銀行への振り込み100万円の他にも、その日に行われたA銀行とB銀行との間の銀行振り込みは相互にたくさんあるはずです。

仮に、その日のA銀行とB銀行の全ての取り引きを差し引くと、A銀行からB銀行に1億円を支払わないといけないことになったとします。

その日も16時15分に、A銀行の日本銀行当座預金(日銀当預:にちぎんとうよ)から1億円が全銀ネットの日銀当預に振り替えられ、同時に、全銀ネットの日銀当預から1億円がB銀行の日銀当預に振り替えられることになります。

このように各銀行間の支払の決済は、日本銀行の中にある各銀行の当座預金を振り替える形で行われます。

(出典:日本銀行金融研究所「日本銀行の機能と業務」(2011:有斐閣)p.69-71)


このように、日本銀行は銀行に対して、銀行が私たち民間に対して提供しているような決済機能を提供しています。図式化すれば、

民間 → 銀行
お金を銀行に預けて、その預金を使って他の企業や人への送金をする

銀行 → 日銀
お金を日銀に預けて、その日銀当預を使って他の銀行への送金をする

ということになります。よく「日銀は銀行の銀行である」と言われます。その言葉はよく耳にする言葉ではあるのですが、内実がどのようなものであるのか、なかなか説明される機会はありません。

何てことはなく、銀行にとっての「お金」とは日本銀行にある自分たちの当座預金そのものです。銀行が紙幣や硬貨を預金者からの引き出しに備えるときにも、日銀当預を引き出す形で日銀から紙幣や硬貨を受け取ります。このように、銀行が持っているお金は、全て日銀当預が大元になっています。

これが「日銀は銀行の銀行である」という言葉の意味です。


次回は、これまでの2回の補足説明をふまえて、第5回「もう一つの信用創造国債の発行+政府支出」」の補足説明をいたします。すなわち、政府支出の支払のため、政府から民間へ預金を振り込む場合に、政府から銀行にはどのような決済がされているのか、という説明です。

                      • -

【編集後記】
昨日のメールニュース発行のあと、後援会の人からメールをいただきました。

「債権、債務の話ですが、中学の社会の公民的分野、高校の公民、中学の家庭科、高校の家庭科で「契約とは」という切り口で通常ふれられているかと思います。 」

「教科書を直接みていないですが、多重債務問題、消費者契約法民法の基礎の基礎というところで教育にとりこまれています。もちろん、マクロ経済でいう債務、債権などは微妙ですが、、、一応ご確認ください。」

「このあたりは問題意識が高い分野で、弁護士、司法書士、家庭科教育、消費者教育でかなり長い間文科省にもはたらきかけられていたところと記憶しています。あと金融教育の観点でもかなり働きかけがありました。」

「あと経済関連で言いますと、最新の学習指導要領の解説のうち、社会の公民的分野、高校の公民について経済分野は全面的に書き換えられています。どちらかというといい方向になっています。また時間のあるときにご確認ください。」

「経済分野が全面的に書き換えられたのは 自分がその分野で問題意識をもって大学院にいってたのでちょっとうれしかったりします ^_^」

公教育も進んでいるということですね。不勉強でした。確認いたします。
御投稿、ありがとうございました。

                      • -

「通貨のひみつ」シリーズ バックナンバー

0:消費税増税に関連して〜いわゆる「お金を刷る方法」とは何か?
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130902

1:「通貨」の定義
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130903

2:融資=貸付のしくみ
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130904

3:なぜ銀行は「貸せない」のか
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130905

4:2つの通貨
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130906

5:もう一つの信用創造国債の発行+政府支出」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130907

補足1:債権とは?債務とは?
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130908

補足2:銀行振込のしくみ
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130909(予定)

補足3:「政府支出と銀行振込」が通貨を増やす(第5回の補足説明)
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20130910(予定)

その後、「国債のひみつ」シリーズへ
1.国債と通貨建ての関係〜ギリシャ国債はなぜ暴落したのか?
2.国債売買と日銀当預との関係(銀行にとって国債は通貨に準ずるもの)
3.日銀当預に付与される金利当座預金なのに利息が付くしくみ
(4以下は未定)

その次は、「希望の国への公的投資」シリーズへ
1.日本の強さは通貨力と工業力
(通貨力は国債の発行→財政力へ/消費税を上げなくていい理由)
2.日本の国力の源泉は工業力
(通貨力を下支えするのは工業力/公的投資は工業力維持のために)
3.サラリーマンを住宅ローンから解放
(ストック重視の住宅政策への転換を加速させる)
4.サラリーマンを教育費から解放
子ども手当、高校無償化、その先の大学の無償化)
5.山の木を活かす地域振興〜いわゆる「里山資本主義」
(人間にとって必要なのは、水、食糧、エネルギー)
6.省エネ発電の主軸=GTCC(天然ガスコンバインドサイクル発電)
(7以下は未定)

                      • -

以上のような記事を皆さまにお届けする「中村てつじメールニュース」。登録はこちらから> http://tezj.jp/mailnews/