第13回「お金を増やせば物価は上がる?」

(前回第12回「きんゆうかんわ」(金融緩和)と「きんゆうひきしめ」(金融引き締め) http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140722 のつづき)


てつ夫:世に出回るお金の量が増えると物価が上がる、というのはイメージできる?

さと子:うん。モノの量が変わらなくて、世に出回るお金の量が増えると、一つ何かを買うときのお金の量が増える、というイメージはできる。

てつ夫:そうすると、お金の量を増やしたら、物価が上がると思っていいのかな?

さと子:うーん、関係はあると思うんだけど、増やしたら上がる、っていう関係まであるかと言えば、うーん…

てつ夫:いいところに気づいた。実は、そこがポイントなんや。

世の中のお金の量を増やしたら、世の中の人が使えるお金の量は増える。でも、さと子ちゃんが、自分の使えるお金の量が増えたからって、必ずしもお金を使うってことにならないよね?

さと子:うーん、何か、もやもやする。もうちょっと説明して。

てつ夫:そやな。例えば、明日デートのとき、バイト料1万円入ったとする。さと子ちゃんはどうする?

さと子:今度の彼とは失敗したくないから、髪切ったり、ネイルに行って、ちょっとオンナを磨きに行くわ。

てつ夫:1万円、全部使うこともあるわな。それなら、田舎のお祖母ちゃんが、「さと子ちゃんが留学したいときのために」って言って100万円くれたとする。その時も、美容室に行ったり、ネイルに行ったりして使い切ってしまう?

さと子:そんなん、するはずないやん! 自分でバイトしたお金やったら全部使うこともあるけど、お祖母ちゃんが内職してコツコツ貯めたお金を100万円ももらって、遊びに使うなんてありえへん! てつ夫さん、おかしなこと言わんといて!

てつ夫:えらい剣幕やな。モノの喩えやがな…

ちょっと落ち着いてくれ。何か、気づかへんか。人間は、入ってきたお金を全部使いたがるものかっていうこと。1万円入ってきたときと、100万円入ってきたとき。何が違っていたんやろう?

さと子:うーん、1万円だと全部使ってしまえるけど、100万円だと恐れ多くてなかなか使おうという思いになれへん。将来のために取っておこうという気持ちになる。

てつ夫:そやろ。自分で使えるお金って、それぞれの人の中に基準があるんや。いま受け取ったお金を、すぐに使うということもありうるし、また、将来のために取っておこうということもありうる。

ここが人間の行動の難しいところやな。

だから、世の中に出回るお金の量を増やすと、物価を上げることに繋がると考えるのが普通なんだけど、増やせば上がるのかという関係まではない。ちょっと難しい言葉で言えば、相関関係はあるけれど、因果関係はないということ。

ここが、日本銀行が頭を悩ましているところでもある。

さと子:でも、何で、そもそも、世の中のお金を増えているのに、お金が使われていないんやろう?

私たち若い世代は、正直言って、将来にあんまり希望を持たれへん。大学出ても、非正規か、正社員といってもブラック企業ばっかり。一握りのええ大学出た人しか、公務員や大企業には勤められへん。

お金があるんやったら、もっと若者にお金を回したらええのに。なんで、でけへんのやろう?

てつ夫:それも、ええことに気づいたな。実は、毎年毎年、世に出回っているお金は増えているんや。でも、物価が上がらん。それは、使う人にお金が行っていないということなんや。

使う人の典型は、子育て世代や学生という若い世代や。その若い世代にお金が回っていない。だから、物価が上がるどころか物価が下がり気味になってきたということなんや。

さと子:でも、そもそも、なんで物価を上げようとしているんやろう。

てつ夫:そやな。そもそも論やけど、次回は、なんで物価が下がるとアカンのか、っていう話をしよう。


(次回第14回「なんで物価が下がるとアカンの?」 (現時点では未発行)http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/201410** に続く)


追記【さと子の質問シリーズバックナンバー】
第1回・第2回「国債って何なん?」
(第1回「債券って何?」)
(第2回「国債の値段が上がったり下がったりって?」)
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140529
第3回「お金って何?」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140602
第4回「お金とは支払いの手段」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140603
第5回「銀行の銀行」日本銀行
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140606
第6回「銀行にとって預金は資産か借金か?」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140618
第7回「ふつうの銀行がお金を発行!?」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140619
第8回「資産と負債のバランス」(バランスシート)
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140621
第9回「銀行のバランスシート」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140622
第10回「銀行は手元にあるお金を貸すんじゃない」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140719
第11回「銀行にお金を返さないこと、返すこと」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140720
第12回「きんゆうかんわ」(金融緩和)と「きんゆうひきしめ」(金融引き締め)
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20140722
第13回「お金を増やせば物価は上がる?」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20141008