追記1「ヘリコプターマネー」:政府通貨=無利息・償還なしの国債
井上先生の「ヘリコプターマネー」については、いろいろな枝葉末節的な批判がなされると思うが、想定されるその一つは、政府通貨を発行すべきという井上先生に対して、「政府通貨と日本銀行券との交換レートをどうするのか?」という問いである。
これに答えるのは難しい。国家が発行する通貨なので、政府通貨の1円=日本銀行発行の1円となるはずである。
ちょっと専門的な話になるが、政府通貨を1円預けると、銀行に預金1円としてカウントされなければ経済は回らない。つまり、銀行に預けた瞬間、政府通貨も日本銀行券も同じ1円の「預金」になってしまう。
また、預金者から政府通貨を引き受けた銀行が政府通貨を日本銀行に預けることもできるようにしなければ、金融システムは混乱する。すると、結局、発行された政府通貨は、日本銀行に吸収されることになる。
その結果、日本銀行のバランスシートには、資産の部に政府通貨が蓄積されることになる。しかし、この政府通貨は、政府によって国債と換金されることが義務づけられない限り、無利息・無償還のモノになってしまう。これは政府通貨が無利息・無償還の国債と同じという意味である。
こういうモノが日本銀行のバランスシートに紛れてしまうと大変だ。
考えてもみてみよう、無利息、無償還の債券を手渡されて、その経済的評価をどのように考えるか。
いつまで経っても、元本を返してもらえない。
利息も付かない。
こういう債券は無価値である。
つまり評価額がゼロになる。
そうなると、日本銀行のバランスシートは大幅に傷んでしまう。
結局、日本銀行は保有する政府通貨を使って政府から国債を買えるしくみが法的に作られることになる。いまも日本銀行は保有する国債を償還される時に政府から渡される円を使って借換債を政府から購入しているので、日本銀行発行の円では政府から国債が買えて政府通貨では政府から国債が買えないというのは論理的な整合性がとれなくなる。
ということで、金融システムのしくみから見れば、政府通貨という別物を発行しなくても、素直に国債を発行すればいいという話になる。この論点を井上本では書かれていないので、読者は疑問に思うかもしれない。
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