税金と「お金」の関係

今日のNHKスペシャル「コロナ危機 女性にいま何が」を見ました。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/JPG53JR2N6/

コロナ禍のしわ寄せが女性の雇用に影響し、ひとり親家庭にも共働き家庭にも深刻な影響が出ていることが伝えられていました。こういう報道を見る度に、日本国政府が日本国民を守れていないことに、怒りと憤りを感じます。

私は日本が財政を拡大すれば、日本に生きる全ての人が安心して平和に暮らせるような社会が実現できることを伝えてきました。消費税をゼロにもできる「お金のしくみ」のオンライン勉強会を主催しているのも、財政の拡大が可能であることを論理的に伝えるための一環です。

果たして本当に「お金」は日本国にないのか。

結論から言えば、日本国には世界最強の通貨「円」を自国で生み出す力があります。「お金」はいくらだって生み出せます。世界最大の純債権国の国民が貧困に曝されているなんて、理不尽以外の何ものでもありません。

それならば、日本国は何のために日本国民に税金をかけているのか。
税金の本当の目的は何なのか。

この記事では、税金と「お金」の関係、言い換えると、税金が「お金」の価値に与える影響を説明します。

今のコロナ禍で困っている人たちが困らずに生活できるような財政政策をとることは可能です。この記事がその事実を理解していただくための入口の役割を果たすことができれば、幸いです。


1.通貨発行の2つのパターン

国家は自国通貨の発行権を持っています。
この「通貨発行権」が税金と関係しています。

ちなみに、EU加盟国は自国通貨の発行権を持っていないので、この原則の例外に当たりますが、EUの特殊事情まで扱うと、いきなり話がややこしくなるので、今日の記事ではEUの特殊性については触れません。

自国通貨の発行の仕方は、大きく分けて
・「政府通貨」の形で発行している国
・「中央銀行通貨」の形で発行している国
の2つのパターンがあります。

日本も、明治初期の日本銀行設立前の段階では政府通貨の国でした。その後、日本銀行が設立されて、中央銀行通貨の国になりました。

今の世の中の常識では、政府は通貨発行権を持っておらず、中央銀行通貨発行権を持っている、ということになっています。それでは、中央銀行とはどういう機関なのか。実際は、政府からは独立している機関とは言うものの、実際のところは政府の一機関に過ぎません。

次に、なぜ、通貨発行権だけ政府全体から独立させて、別の政府機関を作ったのでしょうか。

それは、インフレを抑えるためでした。

インフレとは、物価が上がってしまう現象のことです。物価とはモノの値段なので、通貨との関係から別の言い方をすると、通貨の価値が下がってしまう現象とも言えます。

インフレを抑えるためには、世の中に出回っているお金を減らす必要があります。そこで、中央銀行を設立して、金利を使って世の中に出回っているお金を中央銀行に吸収させるというアイデアが生まれました。(中央銀行がインフレを抑えるしくみについては、今日のテーマではないので別の機会に説明します。)

そうすると、いくら頑張ってもインフレが収まらないというようなことがなければ、中央銀行をどうしても作らなければならないというものではないということになります。

そこで、まずは、通貨の発行が「政府通貨」で行われている時の、税金と「お金」の関係から説明することにしましょう。


2.「政府通貨」の国の場合

国家が予算を作るとき、税金を集めて財源にする一方、歳出に必要な税金を国民から徴収できなかった場合には、政府通貨を発行して財源に充てることになります。

明治10年西南戦争の時にも、明治政府は戦費の調達を政府紙幣(政府通貨)の増発によってまかないました。この結果、インフレが起こってしまったので、明治政府は財政を緊縮の方向に持っていくとともに、日本銀行の設立に向かうことになりました。この事実は、日本銀行の設立までは日本も政府通貨を発行して歳出の財源にしていたということを表しています。

政府通貨の国では、ある意味では単純です。
税金が足りなければ政府通貨を発行すればいいだけです。

しかし、そうすると、「税金を取るのはなぜなのか」という哲学的な問いが生まれます。

まず一つ目の理由は、物価を抑えるためです。

もし、政府が国民から全く税金を全く取らなければ、際限なく世の中に出回るお金が増えることになります。世の中に出回るお金の量が増えると、1単位当たりのお金の価値は低くなります(正確には、低くなる可能性が高くなります)。お金の価値が低くなるいうことは、物価が上がるということになります。

そこで、政府は国民から税金を取ります。税金を取ることで、世の中のお金をいったん政府が回収して、再び政府の支出により世の中にお金を流していくことになります。税金を取らずに歳出全てを政府通貨の発行でまかなうことに比べて、税金を取った分だけ世の中に流通するお金の量が減ることになります。

その結果、税金を取ることは、物価を抑えることに繋がります。

税金を取る二つ目の理由は、通貨を強制的に流通させるためです。

もし、税金を全く取らなければ、国民が経済取引をする際に、どの通貨を使うかは、国民が自由に決めることになります。そうすると、富の再分配など、政府が国民の生活をより良くする政策を実行しようとしても、国家が発行する通貨が国民に使われていなければ政策は実行できません。より具体的に言えば、政府が発行する通貨を使って国家の事業をしようとしても、その通貨を国民が使っていなければ国民を動かす手段にはなりません。

そこで、国家は国民に「税金」として国家に自国通貨建てでお金を払う義務を課します。そうすると、国民は自国通貨を持たなければ納税できないことになります。納税しなければ、脱税になります。国家は国民が脱税すれば、刑事罰を科せます。つまり、脱税した人は国家に逮捕され刑務所に入れられてしまいます。

このように、国家による逮捕権が担保になって、納税義務は国民に対して強制力を持ちます。そこで、国家は国民に自国通貨建てで納税させることによって、自国通貨を自国内で強制的に流通させることができるようになります。


3.「中央銀行通貨」の国

税金と「お金」の関係については、中央銀行通貨の国でも、2の「政府通貨」で書いたことがそのまま当てはまります。

政府通貨の国が中央銀行通貨の国に移行することの目的は、税金を取ることだけでは物価の上昇を抑えられないときに、金利を操作することを通じて物価の上昇を抑えることにあります。

つまり、税金が物価を抑える手段であることは、中央銀行通貨の国でも変わりません。中央銀行が行う金利の操作という物価を抑える手段は、税金という物価を抑える手段の他に、更に物価を抑える手段として考えられたものです。

そのため、中央銀行通貨の国でも、税金と通貨の関係は政府通貨の国と変わらないことが分かります。


4.MMTが唱える「スペンディングファースト」の意味

以上のように見ると、国家にとっては、税金よりも先に政府支出があり、その後で通貨価値を高めるために税金を課しているということが分かります。

MMT(現代貨幣理論)はこのことを「スペンディングファースト」と呼んでいます。つまり、何もMMTは特別なことを言っているわけではなく、この論点については、MMT論者は事実を述べているだけです。

経済学についてどのような学説に立とうとしても、以上のような税金と通貨の関係は争いができない事実です。

素直にしくみを見ることで、国家は税金を何のために国民に課しているかということが分かります。

結論は、税金は物価を下げるために国民に課している、ということです。


5.関連する論点

このように見てくると、関連する論点として、今度は、「中央銀行通貨」の国で発行されている「自国通貨建ての国債」とはどういうものなのか、という疑問が出てくるかもしれません。

結論から述べると、国債は「利息付きの通貨代替物」とでも呼べるものです。
この説明は7年前、2013年のブログに書きましたので、そちらをご覧ください。

国債とは何か(「国債のひみつ」2)」
https://tezj.hatenablog.jp/entry/20131013/p1

 

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