外国人技能実習生の悪質例(建設業)
今年法案が成立した「育成就労」(いくせいしゅうろう)制度。現行の外国人技能実習制度を廃止して新制度を作るというものですが、法案が成立したといっても施行は3年後で、細かいことはほとんど政省令に委任されています。実際に制度の中身が決まるのはこれからです。
昨日、APSIPの「外国人材相談センター」に技能実習生の悪質例について相談がありました。建設業の経営者の方からの電話です。
実習生が技能実習の2年目に入った1か月後にいきなり寮からいなくなり、外国人技能実習機構へ逃げ込んだと機構から連絡があった。「転籍を希望している。逃亡させないためにも認めた方がいい。」と機構。このようなとき、どうしたらいいのか、というご相談です。
パワハラしていたわけでもない、給料もきちんと払っていた、これ以上どうしようもないと憔悴されている御様子。
結論から言えば、技能実習生が機構に逃げ込むとそれで終わり。逃げ込んだ後は、実習実施者も監理団体も手出しができなくなるので、本当にどうしようもない状況になります。(技能実習制度では、企業は「実習実施者」、実習生と企業の間に入る団体を「監理団体」と呼びます。)
「初期費用もたくさん払ったのに」と憤っておられました。
実情を知っている者からすると、機構にいきなり逃げ込んできた実習生を受け入れたい企業様はなかなか出てこず、実習生にとっても良いことは全くありません。でも、今回の相談例では、実習生の後ろに母国出身の悪質な外国人がいる様子。
ただ、技能実習制度30年間の歴史の中で実習生の人権の保障を重んじる制度に変わってきたので、例え悪用事例が出てきても実習生の意向を最大限尊重するものになっています。
いくら実習生の素行が悪くても、日本語も話せない実習生に企業側は指導もできない。
一通り伺った後、私が気になったのは企業側(実習実施者)と労働者側(技能実習生)との間に入るべき監理団体が何をしているのかということ。
本来、監理団体は通訳を用意して企業と実習生を繋ぐ役割です。しかし、多くの監理団体は、「うちは月額費用が安いですよ」ととにかく見かけの監理費を安く設定しているので手が回らず、コミュニケーションを取り持つという本来の役割を放棄しています。
私の法人APSIPも技能実習の監理団体をしているので、いきなり寮からいなくなったときには、送出機関に連絡をして母国側からも連絡を取ってもらい、実習生を追跡して身柄をおさえます。そして、なぜ会社に連絡せずにいなくなった理由を聞き、会社と実習生の間を取り持ち、必要ならば会社に対して指導をします。
実習生がいきなり機構に駆け込んでしまうと後は手出しができないので、そうならないように事前に監理団体は手を打つものなのですが、この相談例の監理団体はその努力を怠っていた様子です。
私の法人では、このようなトラブルを事前に防止するために、入国前に技能実習生にコミュニケーションをきちんと取れる程度に日本語を覚えてから入ってきてもらうようなプログラムを組んでいます。
具体的には、提携する日本語学校からライセンス持ちの現職日本人日本語教師を海外に派遣します。実習生が入国時に日本語能力検定4級相当試験合格(N4合格)、発話と聴解は3級レベルに引き上げます(N3レベル)。
入国前の教育費が45万円と高額になりますが、実習期間の35か月で割ると月額13,000円弱。一般的に技能実習生が日本に来た後は日本語能力は上がらないので、入国前に日本語能力を付けておく必要があります。
コミュニケーションが取れるか取れないかは致命的に重要なので、APSIPに切り替えられた建設業の経営者からは「とてもありがたい」と言っていただいています。
そのような事例を昨日の相談者にも伝えると、「大阪から関東まで来てもらうことは可能なのでしょうか」と。確かに、外国人技能実習制度の監査や訪問指導は監理団体の役職員が訪問しなければいけません。大阪からだと実費の交通費が高額になります。しかし、それでも構わないという企業様には紹介をしています、と伝えました。
木に竹を継ぐような形で制度を作ってきた技能実習制度。育成就労制度に変わっても、大きな構造は変わりません。
相談例を伺って、私も当法人APSIPは更に充実した監理を行おうと気持ちを新たにしました。
もし、技能実習に限らず、外国人の就労についてご相談がある方はフリーダイヤルまでお電話ください。
0120-111-636
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