国債の格付けと実際の信用度


今日ツイッターで「WEB政党−つくる会−」(@face_up_tokyo_)さんから「中村さん、一つ気になっています。消費税増税はして欲しくはありませんが、増税をしないというニュースが世界中を駆け巡った場合、日本国債の格付けが下げられ、その目減りした利息だけで100兆円規模になると聞きました。大丈夫ですか?」という御質問をいただきました。


結論から申し上げると、日本国債の暴落はありえません。(また、日本国債の暴落をする時には金利が高くなるので「利息」が「目減り」することはないでしょう。)日本国債の信用が、格付け会社の格付けとは全く関係なかったことは今までの歴史が証明しています。

日本国債の格付けというのは格付け会社の勝手格付けであり、取り引きには影響を与えません。格付け会社の格下げに対して2002年に財務省は意見書を送っていますが、その財務省の意見書の通り、10年経っても日本の国債は低金利(=国債の高価格)のままです。

格付けが低い国である日本の国債が、10年にも渡って高価格であるということを格付け会社は、どのように説明するのでしょうかね。


また、今週号の週刊ポストを御覧になってもお分かりのように、ぐっちーさん(山口正洋さん)や岩本沙弓さんという、国際金融の現場で商品を扱っていらっしゃった方も私と同じ見解です。


確かに、民主党の中にも、金融関係の仕事をされていた議員の方が「増税しないと日本の国債は暴落する(=金利が暴騰する)」と主張していらっしゃいますし、そのような意見があるのは承知しています。

しかし、その方々が仰っているのは、「銀行が国債のリスクを嫌って売る可能性がある」という理屈で、そもそも「銀行が国債を売れるのか」ということを検証する必要があります。(銀行は不用意に国債を売ると国債の価格が下がってしまうので、膨大に持っている国債時価総額が下がってしまいます。)

そのためには、「国債を売った円貨で他のモノを買う」という現象が起こる必要があります。


ユーロ圏でなぜ国債金利が上がっているのか。そのしくみを簡単に言えば、例えば、ギリシャ国債を売って得たユーロで、ドイツの国債が買えるということなのです。つまり、ユーロの場合、ユーロという通貨で買える国債が、17国もある。だから、一度何らかの関係で、ある国の財政の信用が崩れると、他の国の国債が統一通貨ユーロで買われることになります。それゆえ、同じユーロ圏で国債金利が大きく変わるという現象が起きます。

このことは、国債外国通貨建てでしか発行できない国も同じことです。しかし、自国通貨で国債を発行しているアメリカや日本は、状況が異なります。


国債金利が暴騰している国、つまり、国家財政が破綻している国や破綻しそうな国というのは、自国通貨では国債が発行できない国です。なぜ自国通貨では国債が発行できないかと言えば、経常収支の赤字国で、基調として通貨安になる方向性にある国です。

投資家は、「この国の国債を買っても、この国の通貨が償還時に他の国の通貨と比べて著しく安くなっているかも知れない。だったら、金利をたくさんつけてもらえないと買えないなあ」とか、「やっぱり、償還時の為替レートが不安だから金利が高くても買えないなあ」ということになるわけです。


ユーロ圏の国は、償還時の通貨の信用という意味では問題はありませんが、「自国通貨での発行でない」という点で、「外国通貨建てでないと国債を発行できない国」と同じです。


アメリカや日本は、自国通貨建てで国債を発行しているので、急激に債券の価格が下がる(=金利が暴騰する)というようなことがあっても、中央銀行が債券を買い取ることによって金利を下げる(=債券の価格を上げる)ことができます。

これを普通の言葉では、「中央銀行がお金をばんばん刷って、債券を買い取るから金利を下げることができる」というような説明の仕方をしたりします。


しかし、ギリシャの場合には、ギリシャ中央銀行通貨発行権がないので、アメリカや日本のようなことはできません。

ECB(ヨーロッパ中央銀行)が同じ様なことをすればいいわけなのですが、それではドイツの人たちが、「自分たちの負担で他の国の放漫財政を支えるのは許さない」と言うわけです。

この点については、「実質的な通貨安で輸出を増やして儲けているのはドイツなんだから、ユーロ圏の他の国の財政を支えるぐらい、どうってことないことだろう?」と私は思うのですが、この点は本論ではないので、ここではおいておきます。


ということで、ECBがどういう金融政策を取るかということが期待されているわけです。

今年初めに行った政策は、間接的に上のようなことをやったということでした。つまり、銀行に、年限を区切って低金利で資金を提供するという金融政策です。直接、ECBがギリシャなどの国債を買い取るのではなく、銀行がECBから提供された低金利の中期資金を使って国債を買い取るという手段を取ったということです。これにより、欧州債務危機は一段落して時間稼ぎができているということです。

ちなみに、欧州債務危機の救済スキームにも、日本政府が持っている外貨が使われています。日本が財政危機なのであれば、大きな額の援助を日本がすることもできませんよね。



話を元に戻しましょう。円建ての国債である日本国債金利が上がるためには、「国債を売った人が売って得た円貨で、他のモノを買えるような状態にあること」が必要です。


この点については、「日本国民が円貨を売って、外貨を買い、外貨建ての資産を買い取れば、違うのではないか」という批判があるでしょう。いわゆる「キャピタルフライト」論ですね。

しかし、この論者は、日本国民が円貨を売って外貨を買えば、その反対に、外国居住者が外貨を売って円貨を買っているという事実があるということを忘れています。円貨と外貨の為替取引がなされると、円貨が(日本国内から:正確には円経済圏から)減るわけではないのです。

外国居住者が円貨を買えば、それで何かを買う必要があるのですから、同じことです。


先ほど書いたように、外貨建て国債の場合には、それを売って得た外貨で他のモノを買えるのですが、自国建て国債の場合には、それを売って得た自国通貨で買えるモノと言えば、一番信用が高いのは国債ということになります。

今は景気が悪いので、自国建て国債を買う以外に買うモノがないという状況になっています。景気が良くなれば、高い金利をつけても企業は借りるでしょうし、銀行も企業の収益率が上がるだろうからと融資をすることもできます。

しかし、今の状況では、他に買うモノがないので国債が買われているという現象が起きています。


今まで述べてきたことで御理解いただけると思いますが、自国通貨建てで発行している日本国債金利が上がるためには、日本国債を売って他のモノ(社債・融資・不動産・株など)を買った方が確かで儲かるというような「経済状況の好転」が条件となるのであって、格付け会社の格付けではないわけです。


私たちが「消費税の増税の前に、経済対策を行い、デフレを脱却しないといけない」と申し上げているのは、ここまで述べてきたような理由からです。

舌足らずな点もあろうかと存じます。また指摘を頂ければ、幸いです。


参議院議員 中村てつじ
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