第20回「空家対策が本格化へ」住み替え支援カギに活性化

住宅産業新聞 連載「住宅産業が日本経済を救う」

2017年(平成29年)2月23日(木曜日)号

第20回「空家対策が本格化へ」住み替え支援カギに活性化

 

空家対策と既存住宅の流通促進

 今年は、住宅産業にとって新しい動きがでてきそうだ。特に、今年は空家対策をきっかけにして既存住宅の売買や賃貸、空家を取り壊した後の土地の売買が進んでいく動きがでてくるのではないかと注目している。というのも各市町村では昨年行われた空家調査が終わり、この三月議会で空家対策に向けた基本計画が策定され、四月からは各市町村で取り組みが始まることになるからだ。

 ただ現状には問題がある。市町村行政の関心は「特定空家」、すなわち状態が悪く打ち壊しの対象になるような空家への対策にとどまり、一般的な空家を流通させて「特定空家」にならないような対策を取るべきだという姿勢にまでなっていない可能性が高い。空家対策を実効的にしていくためには、地域の不動産業者・工務店(建築業者)・金融機関(銀行・信用金庫)などの民間事業者が協働して連携体制を作っていく必要がある。市町村行政には一歩踏み込んで民間事業者の連携体制作りに取り組んでいただきたいと思う。

民間事業者の連携体制づくり

 空家はなぜ空家になったのだろうか。大きな家が空家になるには、①子どもたちが独立して夫婦二人での生活になった→②どちらかが亡くなって一人の生活になった→③二人ともなくなって空家になり管理する人がいなくなった、という三段階が通常の流れになろう。

 そうすると、夫婦二人かどちらか一人の①②の段階では未だ住宅を管理する人がいたものが、両方が亡くなった③の段階になると管理する人がいなくなり空家になってしまうということが分かる。相続人である子どもが遠隔地に居る場合には、手を打つことが難しくなる。つまり、①②の段階で対策を取ることが本当の意味での空家対策になるという常識的な結論になるのだが、ここが難しい。所有者である御夫婦にとっては自分たちが亡くなった後の話なので積極的に空家対策をしなくてはいけないという気持ちにはなりにくい。だからこそ、今日まで空家対策が十分には進んで来なかった理由がある。

 空家対策をするには、①や②の段階で、所有者である御夫婦が積極的に住みかえをしようという気持ちになるしくみを作るしかない。住みかえた方がより豊かで気持ちがいい生活が送れると思っていただけるような環境を提供することが事業者の使命になる。

 今号では、そのための方法として、二つの方法を検証してみたい。一つはサービス付き高齢者住宅、もう一つは移住・住みかえ支援機構による家賃保証である。

サービス付き高齢者住宅

 「サービス付き高齢者住宅」(以下「サ高住」と略)は民主党政権時に成立した高齢者居住安定確保法に基づくしくみであり自民党政権に戻った後も継続されている。一般的な介護施設とは異なり、住宅型であるサ高住は自宅として自由に過ごすことができ、介護サービスを利用する場合には自分が選んだ在宅介護サービスを自宅にいながら医療者や介護者に訪問してもらうという形をとる。自宅にいる自由さと共に必要に応じて介護サービスを兼ね備えている。またサ高住は新しいしくみなので建築される建物も新しい建物になる。光熱水費を抑えるためにも、いま普及しつつある高気密・高断熱住宅として建築されれば、古い住宅に住むよりも快適になる。

 つまり、広い家に夫婦二人ないし一人で住むことよりも、自由・安心・快適に過ごせる環境を得ることができる。このようなメリットが理解されるようになれば、空家になる前に住みかえが起こり、空いた自宅を別の形で活用しやすくなる。

 サ高住のメリットは、供給者側の土地の所有者や建築会社にもある。

 土地の所有者には相続税が安くなるというメリットや安定した収入が入ってくるというメリットがある。人口が減る中で一般賃貸住宅はこれから空室率が高くなると予想される。しかし現状でも全く足りていないサ高住は、これから高齢化が進みますます必要になってくる。温度変化に敏感なお年寄りにとって、冬温かく夏涼しい高気密・高断熱のサ高住に住む需要は増えることはあっても減ることはない。

 建築会社には、一般の注文住宅と異なり仕様も設備も規格化された一般的なものでいいというメリットがある。画一的な間取りや一括購入の部材によりコストダウンもできる。建築会社が所有者から一括借入をして入居者を直接募集したり併設する介護事業者を選んだりすることもでき収益源を増やすことができる。建築資金を融資する銀行にとっても、収入が安定するサ高住は融資先として魅力的になる。

JTIの家賃保証

 次に住みかえをした後の自宅をどのように活用するのかということを考えてみたい。子どもが地元から離れている場合、自宅を将来子どもが引き継ぐことを願い、すぐに自宅を手放すことに踏み切れない人も多いだろう。ただ、サ高住に入るにしても費用がかかり年金だけでは必要な家賃や生活費を賄うのに精一杯でお小遣いもないことになる。やはり賃貸に出すのが一番の選択肢になりそうだ。そこで公的に用意されているしくみが「移住・住みかえ支援機構」(以下「JTI」と略)の家賃保証である。

 所有者はJTIと三年の定期借家契約を結ぶ。この定期借家契約は三年ごとに再契約される。つまり所有者側は終身まで預けて安定収入を確保することもできるし望めば三年の契約満了で自宅は戻ってくる。また借主側から見れば供給が少ない一戸建て賃貸住宅に住むことができ、また定期借家契約になるので家賃も割安になる。

 JTIのしくみが特徴的なのは所有者に対する家賃保証が用意されている点である。所有者としては、終身の期間、収入が変わらないので安心してサ高住に入居するなどのライフプランを立てることができるわけである。

 いいことずくめに見えるJTI家賃保証だが、期待されているほどには使われていない。毎月の家賃については八五%が所有者に支払われ、十%がJTIの家賃保証基金に入り、五%が仲介した不動産業者に支払われる。①家賃の五%の管理料では不動産業者が受けない。②所有者にとって定期借家は普通借家よりも家賃が安くなる上に、JTIの家賃保証をつければ家賃そのものも八五%しかもらえない。この二つがネックになっている。そのうえ、制度がそもそも知られていない。

 状況を変える方法は、市町村が空家対策として広報などで告知すると共に、当初数年は必要経費などを補助して流通する物件数を増やすことである。現状ではJTIの協賛事業者になったとしても物件数がほとんどないので年間1件も仲介することができない。これではボランティア的に協力しようとしても経済的にマイナスばかりなので続かない。もし、物件数が増えて安定的に使えるようになれば所有者も入居者がつかないリスクよりも安定した収入を優先する人も増え、更に物件数が増えるという好循環が生まれることになるだろう。

ワンストップサービス

 今号ではサ高住と家賃保証の組み合わせで住みかえ支援をするという方法をお示しした。住みかえにより自分たちの生活がより快適で豊かになるというイメージを持っていただければ、これらの方法も活用され住宅産業の活性化にもつながっていく。私も引き続き連携の必要性と具体的なテーマの明確化に取り組んでいきたい。

 空家対策で問題になるテーマは非常に幅が広い。相続がらみでは権利関係の整理、遺品の整理、管理のあり方などが問題になるし、所有者が活用に出そうと思っても不動産業なのか工務店なのかどこに相談に行ったらいいのかも分からない。各分野の専門家であっても全体像は掴みにくい。

一番必要なのは、消費者側が相談できるワンストップな窓口サービスである。しかし、行政では人手が足りずにそこまで手を出せない。だから、まず行政と各専門家集団が協働して地域の連携を取るしくみを作る必要がある。それも、公平性・中立性が確保されていなくてはならない。つまり、参加がオープンであり、参加者に対する評価が中立的であることが必要だ。そのためには、口コミ情報やクレームを公開することも必要になろう。これらの点についても今後より深い検証をしていくことにしよう。